焦り、交錯

「―――…はぁ、はっ」

「あの女だ、撃て撃てぇ!!」





降り掛かる銃弾。
敵船の上を、半ば逃げるように走っていた。

厳島に行くにはどうやっても水軍を突っ切らなければならない。
本陣に着いてからの力を温存しておくには少しでも長く、船と船を伝いながら移動する必要があったのだ。
弾が当たるか当たらないかの瀬戸際で物陰に隠れる。
だが上がった息が収まってくれなかった。





(毛利は…
私の命を、狙ってる―――)





敵は私を狙っている。
捕えようではなく、殺そうとしていると気迫で分かった。



でも―――「…!!!」

「うぁあああ!!」




ザクッ、と床に刀が刺さる。
咄嗟に脇に転がって斬り伏せた。





「はぁ…はぁっ…、」





どうして




「………」




今なの―――。

この能力は他国にとって確かに危険だろう。

だが、状況等あちらにはとっくに知られてた事。私が、動けない事も。その気になればいつでも仕掛けてこれた筈。

それに毛利にとって元親の存在は邪魔。
元親の動きを止めるなら正面切って向かうではなく
人質や何らかの策を取る筈、
あの毛利元就なら。

豊臣や松永の時のように…私を人質にした方があちらの戦況は有利。

私を仕留めたところでどれ程の利益があるの―――。





「―――……!!」





はっとして、目を剥いた。

―――凛に届いた書状。
毛利の言う薬。
本陣である厳島。
向かった元親。
四国への水軍。
私の命を狙う毛利兵―――。




まさか―――…。






「―――…姐さん無事か!?」

「………」

「姐御?」

「…えぇ、大丈夫」



駆け付けた元親の部下達。
彼らの声で我に返る。




「顔色が良くねぇですぜ」

「無理だけはしないで下せぇよ!」

「此処は俺達が!!」

「アニキを頼んます!姐さん」

「えぇ、ありがとう」






此処は任せたわ―――。






―――






トンッ、
―――床を蹴って只々進む。

毛利の目的。
頭の中で繋がった事に沙羅自身焦りを感じていた。
もしこれが本当なら





(絶対止めなきゃならない…)





彼らを―――…。





「何処にいるの…っ」






由叉―――。





彼女はこの事を知っているのだろうか。





由叉と話さなければならない―――。





「はっ…、は…」




走った、何度転びそうになっても



探した、何度体が悲鳴を上げても




「あぁッ!!」





突如雨のように降り注いだ矢。
床から足を離した時だった。次の船に移ろうと高く飛び上がったのを、敵が狙っていたのだ。

肩を掠めた矢の勢いで船の上に叩き付けられる。





「くぅ…っ…」





刹那カチャ、と耳元で聞こえる音。
痛みを感じる間もなく、蹲る自分の首元に突き付けられた刀。目だけ動かし見上げると、若い男が立っていた。






「此の先は行かせられぬ」

「誰…――」





年は自分と変わらなく見える。
色白で聡明な顔立ち。毛利元就を彷彿させる表情。
頭が切れる男だと、分かった。

沙羅を見据えて静かに言う。





「毛利軍…宍戸隆家、
―――そなたのお命、頂戴致す」




20120219
20120904改

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