募る想いはもう、

「………」






慌ただしく縁側を行き交う人を見つめながら、沙羅は目を伏せた。

部屋まで来たはいいが咄嗟に立っていられなくなり
壁際に座り込んでしまったのだ。体中が重い、原因は昨夜だろう。
無理したと分かっている。
それでも、止められなかった。




「元親様ったら…もう、」




苦笑して、戻ってきた凛が「無理なさいましたね」と言って。言葉に詰まる。
小さく苦笑して返した。




「教えて…」





何が起きているの?





―――元親は何処にいるの?






聞きたかったそれを問えば
凛の瞳が細くなって。







「―――水軍が此方に向かっております」

「…!凛様それは…」





驚き口を挟んだ兵を、凛は目で制した。





「水軍………」

「毛利元就でございます」

「…!!!」




その名に目を見開いた。





「毛利の水軍がこの屋敷に迫り、今富嶽で応戦しております」

「なら元親は富嶽に…」

「元親様は四国にはおりません」

「え…」





い、ない

―――呆然と見つめる沙羅を
凛は真剣に見つめ返す。





「元親様は、ご自分で作られた新しき富嶽と共に
厳島に向かわれました」







「厳、島…―――」





そして文の事、
主将毛利元就は厳島に陣を敷いている事、
四国に放たれた水軍は恐らく自分と沙羅を狙っていると伝えた。





「元親はその薬の為に…」

「はい」




頷く凛を戸惑うように見つめるしかなかった。





「私…いかなきゃ」





刹那両手を強く握られて。沙羅を見つめて凛が首を横に振る。




「どうして…っ、」

「なりません、」






元親様がそれを望んでいるとお思いですか







「何故黙ってまで行かれたと思いますか」





それは






「貴方様の身を危険に晒したくないから…!
それに、」







ちらっと見たのは刻印のある肩口で。







「斯様なお体で…どうなさるというのです」

「それ、は…」

「行ってどう出来るというのです。厳島は更に激しい戦場となるでしょう。
敵陣に飛び込んでいって生き残れるとお思いですか」





途端ギュッと抱き締められて。






「もう貴方様だけの体ではないのですよ…っ、」






沙羅様は四国を統べるあの方の、正室となる御方なのです







「…っ!!」






見開いた瞳から涙が溢れていた。
凛までもが泣いていて。沙羅はゆっくり目を細め、伏せた。
そして





「沙羅様…」




そっと凛の手を離して、微笑んだ。

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