忘れられない
「―――…ぅ、」
漏れた声。
次第にはっきりしてくる視界。沙羅は目を開けた。そこにはいつも通りの天井。頬を掠めるのは、開け放たれた襖から流れてくる海の香り。部屋に差し込む光が今は朝だと告げていて。
「……く…ぅ…っ、」
起き上がろうとした、でも全身が痛くて。力が入らない。
―――昨夜の事を思い出す。
『俺と夫婦になれ』
互いに本当の気持ちを伝え合った、愛し合ったあの時。
そっと…己の唇に触れた。そう、奪われた。
少し強引で優しい力に、強く求められたあの時―――。
思い出しただけで体が熱くなって。いけない、そう心の中で言い聞かせる。
起き上がりたい。
だが、体が鉛のように動かなくて。どうしたものか、と見上げた時
「起きられたのですね、沙羅様」
「凛様」
丁度良く入ってきたのは彼女で
「“凛”で宜しいと申し上げたでしょう」
ニコッ、と微笑む彼女に安心して。沙羅も笑みを零す。
「元親が運んでくれたの…?」
「はい」
「元親は今何処に…」
「元親様なら―――」
刹那だった。
激しい爆発音が聞こえて。「凛様!!」と走ってきた長曾我部軍の兵士がやってくる。
(何―――?…、)
騒めく胸。
「姐さん目が覚めたんだな…!」
「沙羅様、起きられますか?」
駆け寄った凛に応えようと全身に力を入れるがどうしても体を起こせなくて。
肩を貸してもらいやっと
立ち上がる事が出来た。
「何が起きてるの…?」
凛に聞けども「敵襲にございます」と言われ、後は何も話してくれない。手を引かれるまま、連れられていった。
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