差し迫る

「―――出航準備完了しやした!」

「いつでも行けますぜ!」



太陽が顔を出し始めた早朝。海は穏やかな光を反射していた。大きな背中は上着を翻し、ぐるりと見渡す。




「行くぜ野郎共、出航だ!!!」

「「「うおぉぉお!!!」」」





―――




「―――…アニキ!」




出航して暫く経ち、船上が落ち着いた頃。



「船体、乗員共に異常ありやせん」

「おう」




元親の下に佐平太が駆け寄った。




「いよいよですね、アニキ」

「あぁ、そうだな」




全ては一通の文が始まり。



『―――元親様』

『…?』



ふと凛が差し出したそれは、綺麗に折り畳まれた文。



『毛利からの書状にございます』

『何…!?』



目を通すとそこには、沙羅を治す唯一の薬がある事、それを毛利が持っている事。それは力を保持したまま、力と引き換えに失われた寿命を戻し刻印も消す事。そして欲しければ凛を毛利に引き渡せという旨が記されていた。



『…最初は迷いました。
元親様にお見せすべきか、』




でも貴方様は…




『―――俺は行くぜ』




迷わないと思っておりました




『ハナから言う通りにするつもりはねぇよ。
お前は何も心配するこたァねぇ…安心しな』

『元親様、まさか―――』





「―――直接会って確かめるぜ」




奴が言う事が本当か。そもそもこの文が奴のモンなのか。
…会えば分かる事だ。


それにな




「遅かれ早かれ野郎とは決着を付けなきゃならねぇ」




互いに相入れぬ事等、百も承知。
どちらがこの瀬戸海に相応しいか…はっきりさせる時が来た。
―――不敵に笑った元親が得物を担いで。歩いた先、船首に足を掛けた。




「話が本当ならその薬ってやつを奪うだけよ!
そんぐれぇ造作もねぇ、だろ?」

「当たり前でさぁ、アニキ」

「はっは、そうだろ」




風に吹かれ靡く銀髪。
後ろ姿を見て。佐平太が目を細めた。



―――でも、




「本当に…良かったんですかい?」





姐さんを四国に残してきて

―――言えばその肩が止まって。





「問題ねぇ」





一言だけ返ってくる言葉。
元親は上着を翻し近付いてくる。そこには普段通りの頼もしい笑顔を浮かべていて。佐平太の肩に手を置いた。




「余計な事考えてんじゃねぇ。
相手はあの毛利元就だ、俺達が食ってかかる事ぐれぇ分かってんだろう。
気を引き締めて「アニキ、姐さんは!」




擦れ違った元親の足が止まる。





「追い掛けてくるんじゃ…ねぇですかい?」




俺達が行ったと知ったら




「アニキ…―――」





沈黙が降りて。





「―――…沙羅は、来ねぇよ」




ジャラ…と鎖が鳴って、振り向く。




「だから心配すんな」





言えば辺りを見回して。





「―――オメェらもだ。ンなところでコソコソしてんなよ」

「「「アニキィ…」」」

「持ち場に戻りな…たく、鬼の目を盗んで余計な気ィ回しやがって」





そうだ、沙羅は来ねぇ




いや、来れねぇよ





アイツは来ちゃならねぇ、その為の





『お前を正室に迎えたい』





約束なんだ―――…。

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