一族の記憶

『どうか―――父や母と等しき道を歩みませぬよう…』

『例い忌み嫌われようと、其方達だけは…』




自由に生きなさい―――。






優しい声、見えた姿。
記憶に新しくない人々は何故なのか、とても懐かしく感じた。





『『沙羅、由叉―――…』』





―――…!!






父と、母―――?…






伸ばした手、消えた二人の姿。
代わりに広がったのは炎の海。きっとそこが六条家の城。
大広間、敷き詰められた畳の上に二人は立っていた。




『…此の力はあってはならぬものだった』




人の世にあってはならぬものだった





『………』





『漸く……終わる』




『―――様』





ギュッ…





『私めが付いております』




お一人では御座いません





『…すまぬな―――』








瞬間、私の中に溢れる記憶。
父と母の思い、一族の思い。

代々力を、名を受け継いできた。
その力は常人が持ち得ない事を可能にするが、寿命を奪う。耐え切れなくなった体はやがて力尽きた。
稀少な力は戦の火種となり、自身を守る為に使った力は自身を弱らせていく。
六条は縁がなければ生きていけなくなった。




「とても…悲しかった」




次第にこの記憶が刻印を通じて溢れてきていると、私には分かった。
心の臓に近くなればなる程、深い記憶が流れ込んでくる。
そんな気がした。




「一族は静かに生きたかった。
短い命をただ…穏やかに」




長かった戦。
滅びの道を選ぶ事で六条は、波乱に満ちた歴史を終わる筈だった。
だが二人は、娘達だけは、道連れに出来なかった。





『六条家と知らず知られぬまま、
力を知らず知られぬまま
どうか…生きて』




力に翻弄されない…穏やかな幸せを生きて―――。






「父と母は…」





私達に“生”をくれた――。

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