特別な場所

ザァ―――…

さざ波に添えられた音は静かに、だが途切れる事なく繰り返されていた。
そこに沙羅が足を踏み入れる。




「覚えているか?」




この場所…昔お前にくれてやった、この景色を






『綺麗……』




「―――えぇ、」




覚えてる、今も鮮明に。

―――地平線に沈んでいく夕陽。
空も木々も、砂浜も柔らかな橙色に染まっていた。

まるで昨日の事のように思い出す。




「あの時以来ね、…本当に早い」





時が経つ、それの何と早い事か



幸せな時間程…こうも早く…

―――パシャッ、と波を掻き分けて。
小さく水飛沫が散った。屈み込んだ沙羅が掬い上げて。
両手に広がった水と砂の世界は、月明かりを映し揺れていた。





「………」




まるで鏡のよう。
だがそれは、永久(とわ)を許さない仮初めの水面(みなも)。
揺れて定まらない儚い世界。



―――ピチャン…

僅かに手を離すと水は、砂は零れ落ちていく。
ふと吹いた海風。零れ落ちるそれを、長い髪を揺らした。





「………」




その後ろ姿を見つめ、目を細めれば
フッ、と風が止んだ。




―――バッ…




「………?」




刹那耳に入った音。
突然彼が上着を脱ぎながら、此方に歩いてきて。
驚き赤面した沙羅に構う事なく、横を通り過ぎると海に飛び込んだ。

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