夢のままで、

「―――くそッ!!」




ドッ、と元親が柱を強く殴り付ける。





(俺はあいつを






『元親…っ』






泣くあいつをどうする事も出来なかった)





「……」




探し続けたその方法。
刻々と命を減らし続ける沙羅が少しでも生き長らえる手立て。

見えない寿命を確かなものにしたかった。
確実な術を見出せないまま、それでも療養を続け一時は回復していると思っていた。それを幻というように表れた刻印。止まっていた時を埋めるように表れたそれは、既に心の臓の前まで迫っていた。




(お前を絶対に死なせねぇ、そう言葉にしても)





時間はもう、刻々と迫っている






「凛」

「はい」






俺に






「今の俺には…何が出来る」

「………」






一度は戻った笑顔を





どうすれば取り戻せる




もう、どうにもならねぇのか?





―――握り締める手が震えた。






「―――元親様」




「?…」





―――





「…―――!!!」





ガバッ、と起き上がって。
沙羅は辺りを見回した。そこはいつもと変わらない自分の部屋。





「はっ…はっ…」






夢……

―――襖の間から差し込む光は橙色に変わっていて。いつの間に寝てしまったのだろうか。




元親

―――そうだ、私







(彼に……泣きついて…)





「…………」





何故泣きついて……しまったの…―――





貴方にあんな顔




させたい訳じゃなかった






『生きたい…っ、』





あんな事を言っても





貴方を困らせるだけだと知っていたのに






「馬鹿ね…」





元親も凛様も皆、治す方法を探してくれている。
私は療養…治す為とはいえ結局はただ待つだけ。
皆を頼る事しか出来ない。

それでも…治る兆しが見えていたから、頼るのが幸せだった。
これはきっと我儘。




来(きた)るべき時が来(きた)るべきしてやってきた
ただ、それだけ




それだけの筈なのに






「………―――」





沈みゆく夕日。
淡く優しい橙の光は今の私には――強過ぎて、眩し過ぎて




思った、その時





「―――起きてたのか」




「元、親」





彼が、やって来て。
黄昏を背負って、私を見つめる。





「さっきは…取り乱してごめんなさいね」

「いや…いい」




そう言葉を切れば、元親は沙羅に背を向けた。
互いに夕陽(せきよう)を見つめ、口を閉じる。






「―――ちッ、」



沈黙を破ってガシガシと頭を掻く。
沙羅に近付いていった。




「此処にいても気が滅入っちまう…
―――沙羅!」

「?…」




呼ぶや否や彼女の手を掴むと、ぐいっ、と引っ張り上げて。
驚いて体勢を崩した彼女の、起き上がった体を自分の元へ引き寄せ笑った。



「海に行かねぇか?」

「え…」





なぁ、行こうぜ





俺とお前だけのあの場所へ―――。



20111129
20120903改

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