刻限は止まず
「…―――沙羅!」
「殿」
「元親…」
縁側から飛び込んできた彼はゆっくりと近づいてきて。
寝そべる沙羅を見て眉を顰めた。
―――
「昨日の夜にございました…」
隣部屋で仮眠を取っていた凛。
激しい咳込みに目を覚ましたという。不審に思い訪れた其処は沙羅が布団の上に這い蹲(つくば)っていて。蹲る体、口を覆う手は真っ赤で。
咳をする度布団を染めていた。
「…いつからだ」
その瞳は暗く、目を伏せて。
「何も…なかったのよ」
本当に突然だった
「……」
「元親」
私
「刻印が…」
心の臓の直ぐ傍まで来てる
―――その言葉に拳を強く握り締めて。
険しい面持ちで沙羅を見つめたまま、だが何も言わなかった。
六条の人間が持つ刻印。
力を使う程体に刻みつけられる証。寿命を表す証。
そしてこれは―――心臓を覆った時、終わる。
死ぬのだと聞いていた。
「………」
一年前、告げられたあの時も言葉を失った。
俺と凛だけに明かされた言葉。
俺は寿命を伸ばす手がかりを探し、凛は薬に改良を重ね一度は刻印が引いた、かのように見えた。体調もいいと言う沙羅に安堵していた。
「私は…―――、」
「大丈夫か!?」
再び咳き込む沙羅。
駆け寄った元親がその背を抱いて摩(さす)ってやって。
暫くして咳は止まった。だが荒い呼吸を繰り返す彼女の、口から離れた掌は赤く染まっていて。
「はぁッ…はぁ…」
いや
やっと伝えられたのに
生きたいと思えたのに
「私生きたい…っ、」
死にたくない
元親…っ―――。
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