確かめ合った此の存在

「―――…ふ、」

「………」





黙って見下ろす二つの影。
鎮火していく戦場に立っていたのは、元親と沙羅の二人だった。





「これが卿らの力…か。ク、…クク」




喉を鳴らして笑う久秀。
唯一残っていたが、殆ど形を止めていない大仏。それに彼は満身創痍で凭(もた)れ掛かっていた。元親が目を細め、厳しい表情で見据える。




「追い詰められるか…これも一興。
だが心しておきたまえ…その娘の存在はいずれ卿を、滅ぼす。
いずれきっと…」




すっと片手を上げて





「死体は残さない主義でね。
――では…さらばだ」





パチンっ

―――即座、大爆発に変わって。沙羅、と小さく叫んだ彼に体を引き寄せられた。
彼の胸から顔を離し、目線の先を見た時には





「――――――…!」




真っ赤に燃え上がる大仏殿だけがそこにあって。
私達は黙って見つめていた―――。






―――





「―――日が昇ってきた…」



広い海原、地平線から姿を現す太陽。
海を、富嶽を赤く染める。
新たな一日を告げる静寂。海風は音も無く幟旗(のぼりばた)を揺らしていた。




―――ザッ…




「!!!ありゃ…」




望遠鏡から目を離し「お前らぁ!!」と見張りが叫ぶ。
船の上は足音がさんざめき、皆身を乗り出した。





「―――よぉ、野郎共」




今、戻ったぜ

―――光が映し出すその姿。
元親はゆっくりと歩を進め、部下達を見上げそう声を掛けた。
途端、アニキと呼ぶ声は後をたたず湧いて。
次第にそれはもう一人の名を求める。彼の腕に抱き抱えられた彼女を。




「沙羅」




ざわめきを受け静かに、彼女だけに向けられる言葉。
眠りから覚ますように彼が囁いて。



――――風が、止んだ







「―――…」




彼の胸に沈んでいた頭が揺れて、ゆっくり開く目蓋。
その顔がゆっくりと向いて。船の上を、仲間を映して――柔らかく微笑んだ。

刹那一人、また一人と仲間の顔は綻んで。二人を呼ぶ声は大きく、歓声が湧いていく。

答えるように見上げて彼が笑ってみせると、沙羅を、そして地平線を見遣った。





「――帰るぜ」




四国へ―――。

朝日を映し笑んだその瞳を




「えぇ―――…」




見つめ淡く微笑んだ。




(お前を)
(貴方を)
(この温もりを)
((もう、二度と))

第5部完

→あとがき

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