内なる鬼

「止めたまえ、西海の鬼。
その娘は卿の手に負えるものではない」




ドクン、
心臓が跳ねて。まるで呼ばれたように意識が持っていかれた。



「豊臣との戦を経験した卿ならば分かるだろう。
その力がある限り、争いも犠牲も絶える事はない。―――その刀とて、同じ事だ」



消えぬ限り、狙う者は絶えない。
私だけではない。その力を目の当たりにした者達は
警戒か欲望、そのどちらかを抱くだろう。




「国を、いや日ノ本を揺るがす力なのだよ。
そしてそれはいずれ飲み込んでいく…卿らも含めてな」

「―――っ…、」




言葉の一つ一つが心の闇をつつく。
開きかけた希望は再び闇に飲まれていく。暗く底が見えない闇の中に。

―――気付けば彼の背中は目に入ってなかった。




「卿は、その娘の真の価値を分かっていない。
血に塗れ狂い咲くように舞うのは、実に素晴らしかった。
躊躇いもない―――あの時の姿は、まるで阿修羅のようだったよ…
戦が嫌だというのが嘘のように次々殺す姿は、見ものだった…」






ククク、と渇いた笑い。
そう、そんな自分もいる。知っている。
目的の為なら結局、見て見ぬふりをして簡単に命を奪う
“鬼”のような自分も知っているから…。





「あれは守るものではない…。守ろうなど…愚劣だな、馬鹿げている」





そう、私はずっと巻き込んできた





『テメェの体はまだ―――!!』






傷付けてきた





「分かるかね?私の下にあるべきなのだよ…
卿のような者には到底扱いきれぬ」





この力でも守りたい、守れる。
守ろうと決めた…筈、なのに






直ぐに揺らいでしまう







私は心の隅で









こんな自分を恐れているから――「いい加減にしやがれッ!!!」


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