辿り着く先には

「―――人を何だと思っているの」




まるで使い捨て

―――沙羅の声は怒りに震えていた。




「何…とは?
どうせ散る命だ。どうしようと構わないだろう?」



ギリッ、と奥歯を噛み締める。



「許せない」



刃物のような鋭い目が久秀を捕らえる一瞬。目にも止まらぬ速さで地を蹴り宙へと飛び上がる。




「―――私に刀を向ける、か」



ガンッ!!

―――振り下ろした刃は彼のそれとぶつかって。片腕で易々と受け止められたまま、噛み合う刃。




「卿には失望したよ」

「!!!」




ドオォォォォン!!!、と起こる爆発。
弾き飛ばされるも何とか着地する。だが直ぐにその顔は苦しそうに歪んで。ぎゅっと目を瞑った。

肩を痛めたらしい。片手で右肩を押さえ、ふらっと真後ろの塀にもたれ掛かる。




「…ッッ!!!くぅっ!」




余裕を与えずして向かってくる刃。黒煙の中から飛び出た凶器をすんでの所で避けると、元居た場所には黒光りする刀身が突き刺さっていた。
引き抜かれ、次々と差し迫る一撃一撃を受け止める。




「如何した?姫。私を殺すのではなかったのかね」

「くっ、…あッ……」



剣戟(けんげき)の激しさを物語る金属音。だがそれは一方的だった。

完全に押し負けていた。相手は片手なのに、重い。
両手で一本の刀を操る自分とは比べ物にならない位。
片腕を背中に預けたまま、悠々と迫ってくる攻撃は早く、躱すか受け流すので精一杯だった。




「あッ…!、」



肩を襲った激痛。
気圧され地面に倒れた沙羅は、切り裂かれた肩を押さえたまま睨み付けて。
肩を上下させながらずり下がっていく。




「馬鹿な事をする…折角仲間を助ける機会を与えてやったのだがね」

「はっ…、解放する気なんて…どうせないのでしょう…?」

「……」




静かに目を伏せて。口元を歪め笑う彼女。




「貴方の考えてる事は…だんだん分かってきた。
自分の欲の為だけに人を貶(おとし)め、欺き、利用する。私も、捕らえられた仲間も貴方にとっては餌でしかない」



沙羅の瞳が細まる。




「でも、…悲しいわね。
―――貴方には守るものがない。部下さえも自分一人を満足させる道具。
そんなやり方では貴方は何も得られない」

「…何だと」

「救われず、報われないまま貴方が辿り着く先は“地獄”。
何も…残らない。ずっと一人孤独よ…寂しいものね」




久秀は眉を顰めた。
自分からしてみれば小娘、そんな女から向けられたのは
怒りよりも憐れみを抱いた眼差し。情け。
久秀の中で忘れかけていた“怒り”という感情が
沸々と湧き上がってきた。




「…まだ立場が分かっていないようだ」



ザッ、



「!!!」



ドクンと跳ねる鼓動。ぐっと距離を縮めた男を前にして。




「興は終いだ…。
口の聞き方から、先ずは教えてやらねばな」




ゾッ、




「―――卿からは全て頂くとしよう。
仲間…希望…未来、
なぁに、絶望くらいは残る」






元…親…

―――頬から滑り落ちた。
振り下ろされる刃に身を縮め、強く目を閉じた。

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