守りたいと願った
喉がカラカラに渇いて声が出なかった。心臓が大きく脈打って、体温も上がって。真っ白な頭の中に容赦なく言葉が突きつけられる。
「私は待つのが嫌いでね…従わないのなら卿の仲間が死ぬ。
―――ただそれだけの事だ」
パチンッ、
指鳴りの後、一瞬の静けさを破る大きな爆発音。
風に運ばれ流れてくる火の粉を呆然と眺めて。
直ぐ様辺りは炎で明るくなる。庭にいた仲間の姿を飲み込んで。
「い、や…」
ガクンッ…
「嫌あぁぁぁあッッ!!!」
くずおれた沙羅の悲鳴がこだまする。扉の近くでは佐平太と弥吉が言葉を失っていた。
床に蹲った彼女を見下ろし、久秀が言った。
「今のはほんの虚言だ。彼らは死んではいない。
だが2度目はないという事、肝に銘じておきたまえ―――…」
―――
「―――…」
格子窓から差し込む光はあの時と変わらず、部屋を薄明るく染めて。
辛うじて見える三日月は迫り来る時を刻々と教えてくれる。
『4刻…時間を与えよう。その間に答えを出したまえ。
―――此処から逃げるか、私に従うか』
私は…―――。
―――
「―――…さぁ、答えを聞こう」
再び通された広間、淡々とした声が入ってくる。
「その顔は―――決めたのだな。私の欲する答えを」
「駄目だ姐さん!!俺達の事はいい!!そんな事したらアニキは…っ、」
「アニキはずっと姐さんを…」
「ありがとう」
捕らわれた仲間、皆からの必死の呼び掛けを遮る、穏やかな声。
顔を上げた沙羅の瑠璃色は、優しい光を宿していて。
「私には…ずっと居場所がなかった」
居場所だと思い続けて暮らしてきたあの村も
人々もいなくなってしまった。
『姐御ォ!!』
『沙羅姐さん!!』
なくす度に守りたいと思った
『姉さん』
ずっと守りたいと願った
『―――沙羅』
やっと見つけた居場所なの
「貴方達が“守りたい”ように、私にとっても“守りたい”居場所なの」
長曾我部軍は、彼は。
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