闇の始まり
「気がついたか、女」
「我らが主がお呼びだ。共に来てもらうぞ」
肩を掴まれ立たされそうになったその時、
――ブチッ!
「―――何…ごはっ!、」
「貴、貴様!!…ぐぁっ!」
縛っていた縄が切れ、片方の男の刀を瞬間的に抜き取る。そして刀の柄で男の腹を、頭を力一杯突くとドサッ、と倒れ込んだ男達。
「はぁ…はっ、」
自分でも聞こえる位、心臓が脈打っていた。意表を付けたのは運が良かった。
少なくともこの場所は、この男達は危険だと本能的に思ったのだ。
長曾我部軍ではない、豊臣軍とも違う。
不気味なおぞましい感覚が全身に纏わりつく。
(熱い)
このままじゃ…保たない。
(早く…外に―――「何の音だ?」
「やられた」
「奴らが」
「油断か、口程にもない」
「女だ」
「「女を逃すな」」
「!!!」
無機質な低い声。暗い通路に反響し四方八方から聞こえる男の声に
ドクンとまた心臓が跳ね上がる。
刀を両手に構えながら通路をひたすら走った。恐怖なのか、走りながら後ろを振り返ると着物の裾に躓いて。
「はぁ……はっはっ…」
「逃げられはしない」
「諦めろ」
「我らの前に藻掻こうと」
「「無意味」」
「そんな事、」
――バッ…
「やってみないと分からない!!」
片手で思い切り宙を薙ぐ。一瞬の緊迫した空気。
いつもなら起こる突風。
だが今は、何も起こらなかった。
「どう…して、」
「何だ」
「子供騙しか」
「あの方を待たせるな」
「「さぁ捕らえろ」」
「っ!!!…」
―――
「――連れて参りました」
「ご苦労」
入れ、と無理やり背中を押し込まれる。後ろを振り返るも直ぐに扉は閉められて。刀を取り上げられ、後ろ手に手枷を嵌められていては抵抗も出来ず。
(どうして…、)
縄は切れた。
それなのに、あの時力は使えなかった。
今も…どうして…
―――手枷を外したい。いつもなら難無く出来たのに。いつもなら。
分からなかった。
「まず先に、手荒な真似をした事を、詫びよう」
バッ、と顔を上げると大広間に一人、背の高い男が立っていた。
外に開けた広間は月の光にうっすらと光っていて。
背中で腕を組み、背を向けたままの男を睨みつける。
「貴方…何者なの」
「“冲天千寿”」
フッ、と小さく笑い振り返る。
「卿らの宝刀を頂こうと思ってね。
―――六条の姫」
続
20111008
20120902改
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