刻は動き出す

「―――う…」



ゆっくり開く瞼。
焦点の合わない瞳に映ったもの。少しずつ形を帯びる。目の前には薄暗く染まった畳、そして鼻をつく焦げた臭い。



(っ…、)



ぼんやりと霞む意識。
此処は何処なのか、自分は何をしていたのか
今、何が起こっているのか。

―――頭の回転は疑問の数に追い付けず、ただ横たわっているより他なかった。
心臓の鼓動だけが耳に入ってくる。



トクン、トクン…



「…」



体が動かない、動かせない。
更には全身が熱かった。




『まさか君に…』




「…!!」




思い、出した。
そう、私は半兵衛を…
でもそれって





「私…生きてるの?」





涙が溢れていた。
生きている。
他に分かった事はないが、その事実が何よりも嬉しかった。




「…っ、」




声を押し殺し泣いた。
そうしてるうちに少しずつ体が動くようになってきて。
いつまでも泣いていられない。涙を拭おうとしたが、



「…っ!」



後ろ手に縛られていた。顔を上げると格子窓から月の光が入ってきていて
今が夜なのだと分かった。そして恐らく自分は捕らえられているのだと。



「……―――」






此処は何処なのか。
あの戦からどの位経つのか。
分からない、そして彼は
元親は。
今何処で何をしているのか。

―――浅く早い自分の呼吸。
熱い。頭がくらくらしていた。

恐らく熱があるのだと
分かって、けどどうしようもなくて。
自力で起き上がるのが辛い。
更には自分の置かれている状況が、経緯が何も分からない。
これが不安を煽っていく。




「―――!!」




その時
ザッザッ…、と聞こえてくる足音。
不気味な笑みを浮かべ、開いた襖から二人の男が近づいてきた。

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