欲望の贄
「こいつは…―――」
自然に喉を付いてきた言葉。砦に戻って絶句した。
船場にいる筈の部下が倒れ、砦の中、屋敷の至る所に仲間が付していたのだから。
船を降りた部下達が散り散りに倒れる仲間に駆け寄っていく。動けずにはいたが、大きな傷を負った者は見当たらないのが幸い。
瞬間、脳裏を掠めた沙羅、凛の姿。
「アニキ!!俺達は大した事ねぇっす!!」
「此処は任せて下せぇ!アニキは姐さんと凛さんを!!」
「あぁ、此処は任せた!!」
部下達を尻目に駆け出す元親。弩九で走り抜けていく。
(―――何処のどいつだ…ッ、)
十分に守りは固めていった筈だった。
確かに今回は長く砦を空けてしまったが。再び荒れ始めていた陸を、ある程度抑え海へ出た。それ故に後は海の守りが出来ていれば陸の守りは事足りる、そう思っていた。
「…―――凛!!」
部屋に飛び入り、倒れている彼女を起こす。
「元…親様」
「怪我は…ねぇようだな。
―――沙羅は、一体何があった?」
「…!!!沙羅様!!!」
バッ、と起き上がり寝床に目を向けるもそこはもぬけの殻。眉を顰める元親に、目を伏せた。
「申し訳ありません…元親様―――」
『うっ…―――』
うっすらと目を開けた時には沙羅様の姿はなく、あの時感じた知らぬ気配もなくなっていたのです。
「―――目的は沙羅か」
「アニキイィィ!!!」
バタバタとやって来た部下は「これ見て下せぇ!」と元親に渡して。それは、一枚の書状。
「―――東大寺大仏殿、」
「アニキ、それって…」
グシャッ
「松永―――久秀…!!」
続
20110922
20120902改
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