忍び寄る風音

元親達が瀬戸海に繰り出していた頃。凛は一人、沙羅の付き添いをしていた。



「沙羅様…」



額の汗を拭いてやって。呼吸が落ち着いてきた沙羅を見つめ、手を止める。

ここ2、3日で突然熱を出した沙羅。元親に伝えようにも時既に遅く、海へ出てしまったのだから仕方ない。
今は忙しく、一度海へ出たら暫くは戻ってこない元親。戦場になりうる富嶽に彼女を乗せることは出来ず、凛と共に残す事にしたのだ。
7日に一度は陸に戻り再び海に出る、そんな日々が続いていた。



「お目を…お覚まし下さいませ」



このままでは…体が弱ってしまいます―――



長い昏睡状態。これ以上続けば命の危険にも繋がりかねない。
心配でならなかった。
傷は癒えていても、目を覚ます事はない。

何故なのか。何が意識を妨げているのか。
目に見える傷じゃない、心の奥底に深い傷を残しているのか―――。




「あなた様を待っておられる方がいらっしゃるのですよ…?」




今でもずっとずっと一途に
想い続けておられるのです




「どうか…―――」




ァ…

―――滑り込むように後ろから風が吹き付ける。
同時に、何もなかった筈のそこに突然感じた気配。





「!?―――…」




振り向いた凛に影が一つ、覆い被さった。

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