暗雲

『俺達にとって!!
“守って”“役に立つ”…それが出来て初めて、生きてる意味があるんだよ…っっ』





あの言葉。必死になって、泣きそうな顔でいた由叉が脳裏に蘇る。心の奥底から吐き出したのだろう。だが






「それは違うぜ…、由叉」




お前の言う意味、少なくとも俺はそうは思わねぇ。

―――すっと鋭くなる鬼の瞳。





「それじゃあお前は、」



『人は皆駒…我が望むは安芸の繁栄、――それのみよ』



奴にとって都合のいい駒じゃねぇか、
なぁ。





「…」





広がる懸念。複雑だった。このままで本当にいいのか。
沙羅は





「お前も妹と同じ事思ってんのか」




お前はどう思ってる沙羅。
由叉と同じ境遇にあるお前も―――。




「―――…はっ、分からねえ事だらけだぜ」




がしがしと頭を掻く。
次から次へと出てくる疑問。だが、考えたって分からなくなるばかり。
彼女の口から直接聞くまでは。





「―――…」




沙羅の答え。簡単じゃないかもしれない。
だがどんな答えだろうと
俺は。








―――








「――――――…滄海桑田(そうかいそうでん)たる、か。いやはや、まだまだこの世は捨て置けぬな」




灯籠から漏れる怪しい光。暗闇をゆらゆらと揺れる炎は規則正しく並ぶ漆細工から屏風絵、巷では見ぬ類の刀、様々な珍品を照らしていた。



「『冲天千寿』―――まるで諸刃の剣のごとく…、幸か不幸か。
ククッ、是非この手に取ってみたいものだ…」



飾られた刀を取り、その鍔から切っ先まで舐めるように見る。ごおっと吹き込んだ風に揺れる炎。
目を細め、薄く笑ったのだった。



20110910
20120902改

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