生きる意味
「―――ところでよ、由叉」
宗爺の事、村の事、姉さんの事。話終わって元親の雰囲気が変わる。
「オメェさん、何故毛利に仕えてる?」
「…」
飛んできたのはあまりに唐突で真っ直ぐな問い。思わず言葉に詰まる。
「言いづれぇか」
言いづらくない―――そう言えば嘘になる。
「…そうじゃないさ」
それでも今はそう返すより他に術が無くて。
「でも俺の理由、元親からみればきっと信じられない事だから」
そう、分かってる。
俺は。
「助けられたんだ」
そう、あの日から始まったんだ。
「最初は助けてもらった命、恩を返したい。それだけだった」
でもそれはきっと、きっかけでしかない。
「―――俺は…“守りたい”、大切な人を。
“役に立ちたい”。必要としてくれるから、傍に置いてくれるから。
―――それだけだよ」
柔らかい、春の陽ざしのような笑顔。これが毛利に仕える奴の表情なのか。いや、奴が豊臣まで出向いたのも本当にこいつの為なのか―――そう思えるような、特別な何かを改めて感じた。反面、素直に喜ぶのは無理な話だった。
「助けられた、か」
『人は皆駒…我が望むは安芸の繁栄、――それのみよ』
奴から直接聞いた、あの言葉。思い出し、眉を顰めた。
「知ってんだろ、毛利は「俺達にとって!!」
強い眼差しに射抜かれて。
「“守って”“役に立つ”…それが出来て初めて、生きてる意味があるんだよ…っっ」
「―――…」
突然の言葉。強い訴えは、その意味は何故だろうか。とても重かった。
元親が眉をぐっと寄せると、はっとして、目を伏せた由叉が立ち上がる。背を向け縁側に足を運んで。
「…ごめん元親、今の忘れてほしい」
サァ…、と風が吹いて
「―――姉さんを、守ってやって」
振り向いた由叉が微笑む。声をかける前にその姿は空に消えていた。
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