訪問者

沙羅が目を覚まさないまま、またひと月経とうとしていた。
豊臣との大戦が終わり暫く経ち、それを見計らったのか四国、瀬戸海でも小規模な小競り合いが度々起こるようになって。
ある程度は部下達だけで片を付ける事が出来たが、ここまで頻繁になってくると元親の出陣も必然的に多くなる訳で。砦を空ける日も少しばかりでてくる。



「暫く空けちまったな」




段々にこうして沙羅を見る機会も減りつつある今。凛は変わらず訪れて彼女を診てくれているが、



(城って手段も考えとくべきか―――)



今手薄な砦に女二人を残して陸を離れる―――
最近では悩みの種になっていた。
“何もなかった”がこれからも“何もない”とは言い切れない。

城の連中には沙羅が六条の姫だと話したが、あまりいい顔はされなかった。
亡国の、しかも元は毛利側の姫なのだから。
国の先を見つめ、補佐する側としてそう簡単には受け入れられないのも仕方のない事。
ましてまだ明かしていない寿命の事を知ったら、益々反対されるだろう。押し切る事等造作もないが、目が覚めてから苦しむのが沙羅だという位分かる。
それでも今は、彼女の身の安全は城の方が保証される。一時的に匿(かくま)う―――考えざるを得ない選択の一つだった。

凛の言葉を聞くまでは。




『意識のない沙羅様を城にお預けになるのは賛成出来ませぬ』



城の者達は沙羅様に、強大な力を持つ六条の、そして毛利の手先だったという印象を強く持っております。




『今の沙羅様はまさに四面楚歌。元親様がどうしてもと仰るならば私は、出来得る限りお傍にいたいと思いますが…そう易くいくものではないでしょう』




中には寿命の事、知っている者がいるやもしれませぬ。
お一人にするのは危のうございます―――。

信用がある凛の言葉だからこそ、決められないのも事実で。





「あ―――くそ、」



ガリガリと頭を掻き縁側に座り込む。刹那、






「―――?」




感じる気配。殺気はない。だが部外者が確実にいる、近くに。
一瞬にして元親の目線は鋭くなる。




「…相手が悪かったな。コソコソ隠れてねぇで大人しく出てきた方が身の為だぜ」





身動き一つせず気配を探る。
一瞬の僅かな意識の途切れ、感じ取り後ろの方に目を向けた。






「―――何者だ?」








「…―――流石だね、西海の鬼」





女の声だった。
ザッ、と木陰から現れた姿。薄緑の和装に、薄黄色の襟巻。大きな藍色の瞳。襟足が短いが、その髪の色、風貌―――よく似ていた。






「…オメェは、」





大阪城、火の海の中、毛利が抱き抱えていた女。
沙羅の妹、由叉だった。



20110814
20120902改

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