止まった時間

チュンチュン…―――



四国の空に舞い踊る小鳥。肌を掠めていく風は心地好く、今が戦の世など忘れてしまう。




「元親様」



ッ――…




「終わりましてございます」



襖が開きそう告げた女性。
黒髪、黒目。歳は元親と同じ位。襖の傍に腰を下ろしていた彼を見つけると柔らかく微笑む。
中に通された元親は、部屋の真ん中に只一つ敷かれた布団、その横に腰を下ろして。隣にはその女性もゆるりとした仕草で座った。



「…まだ起きねぇか」




沙羅

―――苦笑混じりの言葉。何度呼んだだろうか。何度見つめ続けただろうか。
だが、問えど目の前の彼女は眠ったままだった。
静かに只、昏々(こんこん)と―――…。

豊臣との戦が終わって数ヶ月。長會我部軍の被害は驚く程少なかった。
傷を負った者はいるが死傷者はほとんどない。戦の規模だけに、今までで一番兵力を保持出来た戦だった。
だが後から分かったのは、沙羅の力が関係していた事。助かった部下の大半が戦の最中、自然に傷が癒えたと言うのだ。重傷でも最終的に助かった者もいる。

彼女は彼女のやり方で長會我部軍を守ろうとしたのだ。
全て自分の身を盾にして―――。

沙羅は重傷だった。軍で最も危険な状態。
何ヶ所もの骨折、出血。深く傷付き、自分達ではどうしようもなかった。なんとか時と共に治療が進み、今では傷跡は略なくなる位回復した。
だが意識は一度も戻らないまま、今も眠り続けている。
いわば昏睡状態だった。


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