交わらない価値

辺りは逃げ道を探すのが精一杯な位、崩壊が進んでいた。
襖を押し倒し、広間を駆け抜ける。



ザ!!…


細い通路から広間に出た、刹那だった。



あんた―――ッ!」



反射的に足を止めていた。交わるのは白き閃光。



――チャ
――ジャ





「―――毛利元就…」




互いの得物が互いの首元で止まる。
鉢合わせたのは毛利元就だった。




「――あんた…生きてやがったのか」



沙羅が操られ、力が暴走する直前まで毛利が居た事は覚えている。今思えば、それからずっと姿を見ていなかった。



「ふん…貴様こそ生きておったか」




淡々と、放たれる言葉は普段と変わらない―――関心も感情もない言葉。元親の知る毛利元就その人だった。
ただ何時もと違うのは腕の中に女が抱えられている事。気絶しているが命に別状はなさそうだ。だがそれよりも驚いたのは。



似ていた。




(こいつが)





「沙羅の妹―――か」




会った事はない。だがそっくりでこれは納得するしかなかった。一つを除いては。




「本当だったとはな…。だが解せねぇ、」



視線が元就へと戻る。




「あんたが人助けか、どういう風の吹き回しだ」




眉を顰めるしかなかった。
この男が他人を気に掛ける等、矛盾しかない。しかも相手は、女。女でもただの女じゃない。



「…貴様に言う事など何もない」

「いや、あるぜ。毛利」



刹那元就の輪刀が僅かに元親の首元に食い込む。だが元親は語調を変えず喋り続ける。



「あんた…今度は何を考えてやがる」




目を細めて



「―――あんたの狙いも六条の力か?」



ガラガラガラガラ―――…



瞬間、大きく瓦礫が崩れて。辺りは火の海に包まれていく。




「――小煩い海賊が、失せよ。
貴様と話すとて無駄な時間よ」

「質問に答えやがれ毛利!」



言うや否や二人の間に割って倒れてくる支柱。




「チッ…――」



ギィンッ!!

―――互いの得物が一閃交わり、間合いを取る。



「あんたその姫さんを駒として利用するつもりか!?」



はっとして瞬時に退く。支柱が崩れた事で崩壊が早まったのだ。悠長に話をする場合ではなかった。
沙羅の妹も六条の姫。そして同じ力の持ち主。
六条の生き残りの一人。
―――一通り崩れ、崩壊が収まった時には、辺りに人影も気配もなかった。



「…」



毛利元就…



『人は皆駒…我が望むは安芸の繁栄、――それのみよ』




姿が見えなくなる直前、奴の言葉ははっきりと聞こえた。
表情一つ変えずに言った言葉が。




「本気ってのか――」




六条を国の安寧の為に使う気か?
その能力が寿命を縮めると知ってて、あんたは



―――あんたが体張って助けに来たのはそいつが大事だからじゃねぇのか…?




「―――!!」



途端地響きが大きくなる。
そうだ。
今は沙羅を助けるのが優先だろうが。少なくとも俺は、こいつを助ける為に此処に来たんだからな。だが



「………結局、あんたは人を駒としか思ってねぇのか」



分かっていた、毛利元就はこういう奴だと。決して理解出来ない、相容れない男。だから今回の戦で、体を張ってまで奴が起こした行動に少し期待していた。
奴が人を想う心を持っているのだと。

だが、それも。



「…」



むしゃくしゃするまま、その場を後にした。



交わらない価値

(戦い、傷付き、生き残った先に)
(待ち受けるのは望む未来か)
(それとも――)

第4部完

→あとがき

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