消えゆく境界

「―――ハッ…ハ…」





私、は…
―――直ぐには分からなかった。
刀を握る感触、直ぐ横にある白髪。
頬を滑る白髪。
―――滴る血。





「まさか」





聞こえる声は





「君に…やられるとはね…」





弱々しく





「げほっ」




洩れて
地面に吸い込まれて






「――――…っ、」




顔を見れなかった。
目を伏せてしまっていた。

情けなのか。
止むを得ない事なのか。




「…どうして」





―――ポタ…





「君が…泣いてるの…」





風に吹かれ靡いた髪。
同時に涙を掠め取っていく。





「貴方とは…」




ぽつり、出た言葉




「会いたくなかった…っ、」 




これしかなかった




「―――そうだね…僕も…」





君の存在など知らなければ
戸惑いも隙もなかったかもしれない。

―――沙羅の肩口にかかる吐息。
力なく苦笑した半兵衛の表情が浮かんだ。





「僕は君に、
…自分と同じような運命を…重ねていたのかも…しれない……」




命の長さ。残された“生”の猶予。
経緯は違えど、蝕まれる体は、苦しみは一番理解し合える――しているつもりだった。
だから。




「君が……羨ましかった」



「え……」




目を見開き、立ちすくむ。
次第にぼやけてくる意識、視界。





「君は……諦めなかったから…」




僕がどれ程君を苦しめ傷付けても
君の心は決して折れなかった、屈しなかった。
体を張って倒れた時も、僕の前に立ち塞がった時も

全て…君の行動は自分に素直で真っ直ぐで。





「僕には……眩し過ぎた。君の生き方が」





そうやって直ぐ感情に表せる君が
涙を流せる君が





「僕には決して――…真似出来ないから…」




そんな感情当の昔に捨ててしまったから。
僕は軍師で在らなければ、在り続けなければならなかったから。




「そんな君に…負けるなんて、僕の、一生の…不覚、だね」



次第に詰まり、途切れる言葉。
―――その手が広い空へ、白み始めた美しい空へ伸びていく。




「秀吉…」




細くなる瞳に灯った、淡い光の粒。




「済まない…。一緒に君の夢…見れない…。
先に逝く…僕を、…許して――――」



ズルッ…―

―――風に溶けるように、消えた音。
沙羅の腕の中で、静かに時を止めた。

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