狂い咲き、

「―――あァっ!!」



ッッ!!



甲高い金属音。同時に弾かれた体は抗う術もなく。屋根の上を転がった。



「ハァッ…ハァッ…」

「まだ戦うの?」



それでも刀に手を伸ばしていた。だが。もう少しで届きそうだった刀は、飛んできた関節剣に弾かれて。渦に巻き込まれ見えなくなった。



「ハァッ…、ハァ…」

「皮肉なものだね。君の力が君の唯一の手段を消してしまった」



愕然と渦を見ていた沙羅に、突き付けられたのは冷めた眼差しと辛い現実。そして直ぐにやってくる疼き。



「く…っ」



ズキンズキンと脈打つ二の腕から血が流れる。傷を押さえて痛みを殺そうとしても、感覚を満たすのは激痛。



「そんな体で戦おうなんて無謀を通り越して呆れるよ。君はもう少し利口だと思っていたのに」

「……貴方の、世辞なんて…もう…っ、結構よ…」



立ち上がり半兵衛を見据える。辛うじて片手に残っていたもう一本の刀を両手で構えた。



「そんな刀一つでどうするんだい」

「ハァッ……ハァッ…」

「まぁ、治癒まで使えるなんて正直驚いた。とんだ能力だよ全く」





流石一族一の能力者の娘だ

―――すっ、と半兵衛の瞳が細くなる。



「だが君の傷は完治していないんだろう、沙羅」

「…」

「君の力は寿命と引き換え」



力を使えば使う程命が削られる 



「君はこの短期間で力を使い過ぎたからね」

「……」

「黙って僕の言う通りにしていれば…傷を負う事も、治癒などと無駄な力も使わずに済んだのにね」

「……――」

「自分の回復に充てる余裕すらない…だろう?沙羅」



私を見透かす半兵衛。反論は、出来ない。彼の言葉は的中していたから。



「無言…か、まぁいい。
一つ聞こうか」



ゆっくりと歩を進めてくる半兵衛。睨み付け腰を落として。



「僕と君には徹底的な差がある。分かるかい?」

「………」

「経験だよ、全てにおける」

「あッ……」



刹那がくん、と膝に力が入らなくなる。沙羅は地に倒れ臥した。


「どう、して…」

「“戦の経験”――いくら巨大な力を持っていてもそれをどう使い熟(こな)すのか」



体に力が…入らない…



「知略・戦術を如何に組み立て、効率良く戦を勝ち抜くか」



お願い動いて




「人の人生なんて一瞬だ。やみくもにやって成功するなんてないんだよ」



動いて



「…君の知略・戦術は共に悪くない。寧ろ高く評価している。
その能力もある。経験さえ積めば群を抜く策士になれただろうに」




まだ…やれるのに……ッ、

―――半兵衛の足が止まり、沙羅に影が降りる。







「だが君は選択を誤った」



浅い呼吸を続ける彼女を見下ろす。



「傷の癒えた政宗君達と秀吉を戦わせているようだけど…徒労だね。秀吉には勝てないさ」



違う



「偶然集まったといえど、元々同盟もない敵同士。その3人がうまく協力し合える保障はない。欠陥なんて直ぐに見つかる」



違う



「…虚しいね。自分を犠牲にしても豊臣の前では無意味。
君は報われないまま死に行く運命だ」

「違うっ!!!」




体を起こし拳を握り締める。
半兵衛の表情が歪んで。



「徒労なんかじゃ…ない。
だって……私は、生き残るの、だから…」




約束した




「怖いのでしょう?半兵衛。……万全な3人が……協力し合うのが…」 



いくら平静を装っていても
本当は居ても立っても居られないのでしょう?




「貴方がこんなに……よく……っ、喋るなんて……よっぽど…気が気じゃないのね。…軍師の名が…聞いて呆れ「黙りたまえ」



ぐっと刀の切っ先が目の前に迫る。見上げると険しい表情とぶつかった。




「調子に乗らないでくれないか。負け犬は負け犬らしくそこに伏していたまえ…、」

「どうしたの…随分と感情的ね……挑発なんかに…引っ掛かるなんて「黙れと言っているだろう」



眉を寄せて。
ぐっと喉元に刃を近付ける。



「女だからって容赦しないよ」

「はっ、斬ってみなさいよ…」

「―――!!…」

「斬れるものなら…っ、斬ってみなさいよ!!」




ド



「!!!ぁ………っ」



再び崩れ落ち、胸を押さえて蹲(うずくま)る彼女。
動悸と痛み、両方から逃れようと必死に藻掻いていた。静かに見下ろす。




「所詮…そんなものなんだ、君も」



嫌…駄目……まだ…



「いくら足掻いたところで、出来る事はもうない」



…生きなきゃ…だめなの…



「僕にも時間がない」




約束したから




「恨むなら己の悲運を恨むんだね」






死にたくない―――…!!






「さよなら、沙羅」




刀を振り上げたその時だった。



「――!!!」



ドッッ!!!



「がはっ…」



ゴボ!!…ゲホッ―――…


剣を床に突き刺し激しく咳き込む目の前の軍師。
手で押さえた口元から吐き出される血。
目にした途端
心を埋め尽くしたのは、恐怖。




『生きて戻ってこい』





涙がどうして出たか分からない。
この極限状態で“私”は既に“私”じゃなかった。
叫びながらがむしゃらに刀を掴み走って。
―――半兵衛が目を見開いた時
刀は彼の腹を貫いていた。



20110423
20120901改

[ 111/214 ]

[*prev] [next#]

[戻]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -