朽ちるなら

黙って僕を見据える瞳は今までにない鋭さを持っていた。



「まさか君がこうするとは思わなかった」



薄く笑った半兵衛が一変し氷の視線を向ける。



「――僕の邪魔をしてどうしようというんだい」

「私は――…」




言い掛けたその時、ばっと手が差し伸べられる。




「戻るんだ、豊臣に。今ならまだ許容出来る。
君だって本当は分かって「来ないで!!」



近づく半兵衛の手。引き抜いた刀が一閃を描く。咄嗟に半兵衛の動きが止まり、表情が曇る。




「私は…っ」




ぎゅっとニ刀の柄を握り締めた。




「もう戻らない」



決めた、これは私の意志。
豊臣は私の居場所じゃない。




「本当にそれを選ぶのかい」



底冷えする程、暗い色の瞳に捕われる。思考が凍りそうだった。が、なんとか言葉を紡ぎ出す。



「私は長曾我部軍の一員―――でもそうである前に」



きっ、と睨み付ける。




「四国の民よ。私には元親を守る理由がある」

「あくまで僕達に、豊臣に刃向かうというんだね。
それが君の答えなのか。

――その選択が四国に破滅を招く事になっても「そんな事、」

「…」

「させない為に私は此処にいる」



彼女の語気が強くなり、静かに耳を傾けた。心のある真っすぐな、迷いなど見えない瑠璃色の瞳。
その澄んだ瞳が何故か、酷く癇に触った。




「本当なら私は――…」





『いやあぁぁっ!!!』

『待て!
その女を捕まえろ!!』





あの村で死んでいた
でも





『やっとお目覚めか』

『…暫くオメェの命、俺が預かる』






彼が――元親が助けてくれた。
何度も、何度も。
身を挺して私を、





「守ってくれた」

「………」

「私の命は元親のもの」



救われたこの命
彼の為に使いたい



「元親を守る為に私は戦う。
――貴方が豊臣秀吉の為に戦うのと同じよ」

「……」




最後の言葉に半兵衛の目が、すっと細くなる。只細められたんじゃない、強く、沙羅と同じ澄んだ色。でも決して交わらない互いの色。




「ならば、仕方ないね」



チャ…と音を立て、抜かれるのは関節剣。



「君の言いたい事はよく分かった。そして君には思い知ってもらうしかないという事も」



半兵衛が腰を低く構える。そして、現れる重く冷たい闇。



「潰すよ、全力で。君の覚悟が僕の前では、如何に脆くて稚拙かを知らしめてね」




同情も哀願も引き付けない凍てついた眼差し。彼の本気。豊臣への固い忠誠心。
“世界で生き残る為に強いものが、圧倒的な軍事力で、日ノ本を平定する”
命の賭け引き、その中で生き残り、戦の度にそれを繰り返し―――それ程までして叶えようとしてきた彼の夢なのだから。
でも、




「もう…、終わりにしましょう半兵衛」




その夢はあまりに強引で、横暴で民草全てが平穏に暮らしていけるものじゃない。
弱いものなら礎としていいなんて道理、あってはならない。




貴方達の夢には罪のない犠牲が多過ぎる――…。





「…残念だよ――沙羅」




その言葉を皮切りに私達は地を蹴った。

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