約束

ッ―――




その時だった。温かい体温。
彼が優しく抱き締めてくれて。




「元…「強がるな、怖ェんだろう」



本当は――。



私だけに聞こえるように小さく囁いた彼。
知らず知らず震えていた体を包み、手を握ってくれる。




「…確かにお前は強ぇさ、こうと決めたら最後まで貫き通す。今までの戦だってそうだった」




そして




「お前が竹中とケリつけてぇってのも、分かる」



お前なりに、因縁があるんだろう




「元親…」

「分かってんだよ、」




最初から。




「…女のお前が怖くねぇ訳ねぇってよ。でも、」





譲れねぇんだろ





「…―――ごめんなさ「もう、」





「謝るな――…」




優しい声。体中に伝わって。涙が溢れそうになる。歯を食い縛って目を瞑った。耐えようと、私情に浸るまいとしても涙は溢れてくるだけ。
泣いてる場合じゃないのに。




「言ったよな、…本当はオメェを戦わせたくねぇ」




女が倒れるとこなんて
見てぇモンじゃねぇ





「だがお前の言葉で目ェ覚めた、思い出したぜ」




頭に血が上っていた。




「俺は四国を守らなきゃなんねぇ」

「…」

「一つ…約束しろ」




彼を見上げた。




「この戦が終わったら…もう一度、」





こうして





「抱き締めさせろよ」

「!!――…」




お前はこの軍に――俺に必要な女だ。
命散らして帰ってくるなんて絶対に許さねぇ。
絶対に、




「生きて戻ってこい」



こいつぁ“頭”としての命だ




「―――っっ…、」




涙は頬を滑り落ちていた。震える肩も、溢れる想いも全て彼の腕の中で包まれて。その胸に顔を埋めた。




「えぇ…、」





必ず約束を果たしてみせる――…











―――






「――子賢しい」



まんじりと手前の渦を見つめていた秀吉は呟き、ぐっと拳を後方へ構える。



「斯様な小細工、この一撃で粉砕してくれよう」




覇気が拳に集まり、そして



ドオォォォン!!!



激しい爆発音がしたのは束の間。拳と渦、双方の力が互いの力を打ち消し合い、蒸発でもしたように白煙が立ち込めた。
消えた渦から飛び出す人影。




「――Sorry」  



それは



「待たせたな、豊臣秀吉!」



秀吉の背に声を飛ばす政宗だった。隣に並ぶのは、



「再びこの幸村、お相手致す」

「借りを…返させてもらうぜ、豊臣秀吉」



次は勝つ

―――獲物を構える元親。びりびりと漂う緊張感。張り詰めた空気。
三人を順繰りに見回し、顔をしかめた。



「死に損いが―――…」








―――







「くっ……秀吉、」



天守閣を挟み、反対側にいる親友。あちらにあの三人がいる。誤算だった。いくら手負いの彼らとはいえ三人を固まらせるとは。
状況を整理し、策を練りながら駈け付けようとした時だ。




ザッ…



「!!」



行く手を遮る一つの影。



「やはり…君か、沙羅」




苦笑し苛立ちを醸し出しながら。
ゴオッ…、と彼女の背後に表れる風の壁。向こうとこちらを仕切る。



「…半兵衛」




すっと鋭く細む瑠璃色。




「此処から先――通す訳にはいかない」



刀の柄に手を添え、腰を落として。





「勝負よ、半兵衛」



20110413
20120831改

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