失い、得るもの

「元親…」

「それでお前は何するつもりだ」



俺が、俺達が覇王とやり合う間





「…私は」




ぐっと拳を握り締めて。




「半兵衛を倒す」




刹那ぐいっと引かれる肩。
彼にしては乱暴で少し痛くて。でもそれを顔に出さないように必死に努めた。





「…オメェ一人で奴と渡り合おうってのか?」




それは言外に




「それ以外何があるというの」





“頼れ”と言っていて





「一人でやれるって本当に思ってんのかっ…」





優しさが痛かった。






「私は貴方に鍛えられたのよ?そう簡単に負けないわ」

「…」

「あの時は発作で十分に戦えなかった、けどこの力、私の意志で使ってる時は半兵衛には私を操れない。もう貴方の足を引っ張らないから」

「書物にそう書いてあったのかよ」

「…」

「お前の意志がはたらいてる時なら野郎にゃどうこう出来ねぇ。
変わりにお前の寿命は――!!!」
「元親!!」
「テメェの体はまだ―――!!」



言い掛けた、言葉が詰まる。
彼女の瞳が震えていたから。



『その先を…言わないで、元親』




あの時の、強く意志の堅い瞳が揺らいでいた。
黙っていると、一旦伏せられた顔が上がって。再び強い真眼差しに戻っていた。
だが迷いを隠した目だと、直ぐ分かった。





「私には…」








『僕が…知らないとでも?』







「…断ち切らなきゃいけないものがあるの…」




半兵衛と私の問題。これは私が、私一人で向かい合わなくちゃいけない。私の意地。一対一で乗り越えなければならない壁なの。

―――ふっと表情を緩めて。



「私なら大丈夫。
貴方は貴方の民の為に――貴方を頼る四国の皆がいる事、忘れないで――…」





“一”の為に“全”を見捨てないで。
そして私も“全”の一人だという事を――。
国を預かる貴方なら分かってる筈。
四国の民が頼れるのは貴方だけなのよ――。



不服な顔で私を見つめ続けていた元親。だがその手の力が弛まって、私の肩から離れた。




「――そうだったな。悪かった」




その言葉は『まだ納得しきれない』と暗に物語っていた。
元親は優しくて面倒見がいい。その人柄が、私を一人半兵衛と戦わせたくない、そして――もしまた私が倒れるような事があったら…という動揺を生んでしまっている。そこまで分かってた。
弱い自分が歯痒くて、辛い。気付けば彼の弱みになっていた、彼を惑わせていた。自分が彼の腕を鈍らせているのだ。




「……いえ、私こそ無理言ってごめんなさい。元親、」




まともに彼の顔が見れない。
見たら泣いてしまうから。感情が溢れてしまうから。
目を伏せたその時、



――ドオォォォン!!!



「っ!!」



再び擘(つんざ)くような音。覇気が、衝撃が体に張りつく。
ゴクリ、息を呑んでいた。そう、此処は戦のど真ん中。いつどうなっても分からない場所。私の力では次が限界。それ以上は防げない。
思考が凍った。

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