追憶

耳に入る音、音、音。
そのどれもが何かを砕くような、傷つけるようなもの。
ゴオッ、と強い風が吹き、沸き起こった砂埃。不意に指が動いた。胸の奥底でごっそりと抜けた、感情という場所に、何かが染み込む。

何なのか分からない。
でも確かにそれは、過去にあったであろう“懐かしい”何か。

さっきまで頭に響いていた男の声はない。あの声には逆らえないから。





『…曾…部の首を取るんだ――』





言われたら、命じられたらそれに従うしかない。私には拒否する事が出来ないの。



『沙羅!!』



でも誰なのだろう。
もう一人、前にいるのは。
何かを必死に叫んでいた。私を見て必死に。


―――何も聞こえない。
只分かるのは、互いに武器を交えるその感覚だけ。





『長曾我部を討つんだ』




目の前のその人と武器を交えている時も聞こえる。



長曾…我部




長曾我部って―――?…








ズンッ




嫌…っ




頭が痛い…っ
 




『ぐぁ…、』

『鬼と名乗るも人か。個に揺らぐなど所詮貴様はその程度、まがい物の鬼よ』

『何、だと…っ…、』

『―――しかし果敢にも、此処まで耐えた事誉めてやろう』










な、に…




何が……――



(っ!!……、)




途端、その人は私の直ぐ傍をすれ違う。凄い勢いで投げ飛ばされ、壁に激突した。
でも“私”はそれを、その場で見つめる事しか出来ない。





「がっは、げほっ……ぐ…っ、」






痛い……っ――





頭…が…痛い…っ…!!――




芽生えた小さな自我は、頭を抱えて屈み込む。
肩を震わせ両膝をついて。





私の心の中で只痛みに堪え続けた。






痛い








頭が………割れる……!!











誰か……っ…助けて…っっ
















誰か………っっ…!!――
















――――…元親…―――――




刹那、はっとして目を見開いた。闇に沈んだ瑠璃色がすっと晴れて、澄んだ瑠璃色を宿す。
――そして遠く視界に映るのは、ボロボロになった彼と、彼に向かって振り掛からんとする刃。
足は動いていた。駆け出していた。
音も風も感じなくて。
迫る刀より早く彼の背を引き寄せ抱き締めた。





―――






『沙羅』



直ぐ傍で聞こえる声。凍り付けだった私の心は完全に溶け、懐かしい声に涙が溢れていた。





『元……、親…』





彼の肩口に沈めた顔を上げ、無意識に頬へ手を添える。傷だらけの顔、でも温かい。



まだ、生きてる……っ…――





『本当に……』





私に貴方を守れる力があれば良かった







『ごめん……なさい……っ…』





貴方は言ってくれた。
もっと、頼れ。
一人で抱えるなと。
でも、
頼れば頼るほど、貴方を傷付ける。



貴方は四国の長






私の為に散っていい命じゃない。

―――刹那反転する視界。
床に倒れたのは私の方だと知って安心した。
霞む視界。私に向かって必死に何か叫ぶ声。

―――全て、眩しかった。


―――ツゥ…

―――涙が零れ落ちる。薄れる意識の中思った。





貴方は生きて








元親…――――








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