臨界点

――ドォォォォ!!




思い切り振り下ろした碇槍。床を砕き煙が舞う。



「―――…ちっ!!」




ぐっと瞳を後方にやる。二手に分かれた敵を追って飛び上がった。




「左手を使ったところで変わらぬと、」

「!!」

「まだ分からぬか!!」



ド!!

―――防御するように、咄嗟に得物を横にし盾にする。が、受け止めきれず再び床へと突き飛ばされた。




「ちぃッ……」



ふらっと立ち上がり、思わず眉を寄せる。
前のめりになる体。足腰の力を振り絞って何とか立っていた。
内心もう気力だけで動いていた。此処に来るまでの体力と目の前の大男の力。何度食らわせても平然と立ちはだかる覇王。力押しの攻撃はもう限界に近かった。




(野郎は…化けモンか…ッ、)



腕で口元を拭う。様々な手段を駆け巡らせていた時ヒュッ、と音が聞こえ碇槍にそれが巻き付く。



「――あぁ?」

「休んでる暇なんてないよ、元親君」



関節剣の柄を強く握ったまま、ぐっと引っ張り込む半兵衛。それに負けじと元親も引っ張り返す。互いの力が均衡し両者動きを止めていた。




「君の命運はもう尽きた。
大人しくここで朽ちたまえ…ッ」

「ナマ言ってんじゃ…ねぇっ!!!」

「!!」



だが半兵衛が力で元親に勝てる訳がない。力を込めて引っ張り上げると、ハッと目を見開き宙に浮き上がる。
――刹那巻き付いていた関節剣が離れ、降り立つ半兵衛の下に戻った。




「―――2対1……いや、君にとっては3対1でどう戦おうというんだい?
彼女を傷つけられない君に、そんな体で戦う君に勝機などありはしない!!」

「うる…せぇよっ!!」



ガ!!

―――迫った刄を弾き返す。



「事実君一人じゃ僕らに勝つ事も出来ない!!この国は弱り切っているんだ!!
世界で生き残るには絶対的な力と兵力、策こそが全てなんだ!!!」

「んなモンなくったって…生きてけるだろうが!!」



攻撃の手を止めない刄を弾き返す。



「目の前の事が務まらねぇで世界なんぞ務まらねぇ!!
弱ぇモンも強ぇモンも平等な命だ!!

てめぇの為だけに勝手に選り抜かれて犠牲になっていい奴は一人も居ねぇんだよッ!!!」

「青臭い理想論は結構だ!!!」



ガッッ!!!

―――火花が飛び散る。互いに距離を離した。



「君を見ていると無性に腹が立つ。
……まるであの男を前にしているようで」

「あの男?」



元親の目が細まる。が、直ぐに驚きに見開かれる。
砂埃の中から忽然と手が迫ってきて。咄嗟に反応出来なかった元親の首元を巨大な手がむんずと掴み、勢いのまま壁に打ち当てる。



「ぐぁ…、」

「鬼と名乗るも人か。個に揺らぐなど所詮貴様はその程度、まがい物の鬼よ」

「何、だと…っ…、」

「―――しかし果敢にも、此処まで耐えた事誉めてやろう」




首を絞めていた手をぱっと離し、腕を掴むと反対側へ投げ飛ばす。防げず壁に激突した。




「がっは、げほっ……ぐ…っ、」




激しく咳き込む。うつ伏せになる体を得物を掴み、何とか起こす。だが、体は限界を越えていた。碇槍を支えにしなければ、片膝を付いていなければ、今こうしてしゃがみ込む事すら出来ない。

視界が揺らぐ。




(ヤベェ……)




ゆっくりと、だが確実に近づいてくる限界。




「終わりだよ、元親君」




近付く半兵衛。
関節剣の刄が光る。





   ・・
「君も同じだ。
現状から目を逸らし、甘ったれた夢を口走り
かといって一人じゃ何も出来ない」





彼女一人救えやしない




はっとした。




「もう沢山だ。僕達の前から」





消えてくれたまえ




低い声。
同時に振り下ろされる関節剣。激しい摩擦音を出しながら幾つもの刃が向かってくる。
顔を上げ、目を見開いた。

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