交わり、届かぬ

「…――退きなッ!!」



ブ!!

―――宙を凪ぐ碇槍。
だが届く筈の攻撃は、体躯に似合わない素早い動きに躱される。




「ちっ!!――」



想定外だった。
いや、想像以上だった。
豊臣秀吉――奴の強さは最早“人”の域を越えていた。序盤は食らわせていた攻撃も今はまともに擦る事すら叶わない。




「――!!」



はっと思考が止まる。背後の冷たい殺気。振り返り際に二本の刀と碇槍が、ギリギリと噛み合う。



「おいっ…沙羅テメェ…ッ、」



無表情のまま俺の得物を押し続ける沙羅。彼女の力は別に問題じゃなかった。
鍛えたのは自分だから戦い方は知り尽くしている。



『――…言えないの…
ごめんなさい…』




突然、目の前の彼女に過去の彼女が重なる。
はっとした。あの時と同じ言葉。また目の前を掠める。

だがそれも一瞬。直ぐに幻と消えて自分を見つめるのは感情も光も宿らない瑠璃色。
思わず唇を噛み締めた。




「目ぇ覚ませ…!!
―――
沙羅ッ!!!」



ガ!!
ギ!!
バンッ!!

―――互いに得物を交えながら。その度に弾ける金属音。
彼女を傷付けないように力を加減し闘わなければならない。
酷く辛かった。



「お前は力なんぞに屈しねぇ女だろ!?」



初めて会った時のお前は
怖気付きもしねぇで俺に向かってきただろう



「操られるような弱ぇ女じゃねぇだろう!?」



なぁ、応えろよ
もう一度お前の声




―――聞きてぇんだ




「無駄だよ」



刹那彼女を押し負かし、脇から迫ってきた刄の鞭を弾き返す。と、身を退き碇槍を構え直した。砂埃が舞う。




「彼女に君の声は届いていない」



次第に晴れていく景色の中、見下すような視線とかち合う。



「彼女は僕の命令しか聞かない。今更何を言っても遅いさ」

「ならっ…!」



ギッ…



「テメェをぶっ殺してその刀取り返――」



最後まで言い切れずに止まる。この一瞬反応が遅れてしまった。
目の前の軍師に気を取られ過ぎて背後の影に気付けなかったのだ。



(しまっ―――「目先のものしか見えぬ愚か者が!!!」



ガ!!


突然真っ暗になる視界。
覇王の豪腕に頭部を、顔面を掴み取られ元親の体は持ち上げられた。

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