命の天秤

ゴォォォ――…




吹き荒れる風。
肩に伸びた手。身を乗り出すように、俺に体重を乗せたお前は何も喋らず。首元に刀を近付けたまま焦点の合わない瞳で俺を見ていた。
ぎり、と唇を噛む。




「竹中ァアッ!!!テメェこいつに何しやがったぁああッ!?」



怒鳴り散らしたのと、半兵衛の瞳が細くなったのは略同時。
刹那沙羅の刀がしゅ、と風を凪ぐ。すんでの所で避け距離をおくと歯を噛み締めて睨み付けた。拳が震えて。




「おいで、沙羅」



ぼんやりと立ったままの沙羅を呼ぶと、身を翻し半兵衛の傍へと控える沙羅。
訳が分からなかった。



「……惜しかった。あと少しで君の首、討ち取れたのにね」

「……ッ!!、」

「不思議でたまらないかい?元親君。
どうして彼女が僕の元に来たのか」



目を伏せ小さく笑う。



「君が持っていた彼女の小太刀……六条の血はあれにとても敏感なんだ」






『…ちっ、くそ』

『大丈夫よ…元親…
これ位、どうって事…ない…』






あの時の肩の傷か…っっ!!



「六条の血を吸ったこの刀、」




いつのまにか床に刺さっていた刀を元親に見せながら






「これで彼女の力を最大限に引き出せる…。


――これを持つ僕の言う通りに」

「!!!」



言った刹那だった。はっとして目を見開く。
音もなく彼女が目の前に現れたのだ。咄嗟に後方へ飛び退く。




「んな事したら…!!」



はっとして。
自分の背後、視線をずらすと冷たい気配とぶつかる。また、彼女。
何時の間にそこにいたのか。普段からは想像出来ない冷たい殺気。元親に斬りかかった。


「ちぃ…!!」



ぐるんと向きを変え、得物の柄で受けた。力押しで追い返す。沙羅は動きを止め、身を翻すと、距離をとって。刀を構えた。



「こいつは…!!」

「そうだね。更に寿命を減らすだろう」

「テッメェ…!!」

「今まさにこの力――城を囲む大渦も彼女の寿命を削って起こしている事だ。
この刀は、」




元々、六条が使命を達成するために授かったもの




「一族の使命は絶対だった。これを持てば一時だが力は増す」





だが




「使命を放棄する者もいた」




自由に生きたいと
逃げようとした者




「そんな者の為に」




あるのがこの力




「分かるかい?」






彼女は






「利用されるためだけに存在する」




人に、国に、世界に。
使命が達成された今でも自由は許されない。
それが国の、世界の意思「…ざけんな」




―――半兵衛が目を細める。




「ふざけんじゃねぇッッ!!」




元親の肩が震えていた。
怒りに顔を歪ませる。




「―――利用されるために存在する?なんだそりゃあ。
全てテメェにいいようにごたく並べただけだろうがッ!!!」

「…それがどうだというんだい」

「何、だと…」




唖然として




「戦に犠牲はつきものだ。
勝つ為には手段を選ばない。
…一国の主である君はそれをよく知っている筈だ」



黙り込む元親。
低く静かに呟いた。





「―――テメェは、」



最低だ





「…」





そうだ
時間がないと人は急いて見苦しくなるんだ



―――すっと細くなる瞳。




「――国の主である君に確認しよう」




君は




「国を傾けてでも、女一人を選ぶんだね」

「それが、」

「「!!!」」



半兵衛の後を続くように生じる声。重たい鎧を鳴らしながらその男は言った。

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