代償
「寿命…だと……、」
「六条は力を授かった。だが、寿命を削って出されるという事だよ」
命を捧げてやっと、価値あるものになる。
―――沈黙が流れて。
呆然と息を飲んだ。
「六条はただ恩恵を受けていたんじゃない」
何か大きなものを得るには犠牲がつきもの
「彼女を見れば分かるだろう?」
「…」
目に入る、のは
どうしても目に焼き付いて離せないのは、腕を蝕む黒い紋。
白い腕を侵す紋様。
「…そうだ。この刻印、六条の人間である証…彼女の力はこれを媒介としている。
つまり、」
使えば使うほど刻印は広がる。
「寿命は縮んでいく」
「!!…」
――目の前の彼女は歯を噛み締め、ぐったりと寄りかかったままで。力のない瞳、喋るのも無理だと分かった。静かに目をとじる沙羅。
「彼女は中でも能力が高かった。
その分、体への負担が大きいんだ」
事実今こうして何も出来ず倒れ込んでしまったのも、減らした寿命が多すぎて限界が近いという事。
「…六条の力は類を見ないものだ。
その能力は敵に薄々気付かれてもいた。でも六条はそういう事も考えていたんだろうね」
忠誠を誓う主君以外に利用されてはならない。生き延びて自分達の力が他に渡る事は許されない。
それは新たな争いの種を生む。
「此処からは僕の予想だが」
目を細めて。
「自分達が畏怖され、一方で力を狙われているのも知っていた」
いつかは俗世を離れ生きていきたいとでも思っていたのかもしれない。
「だが彼らは名を上げすぎた」
もう人目を憚り生きていくのは無理だった。
「そんな時、城攻めに遭った」
「…」
「敵も六条を討つ勢いできた。連合軍だったと書いてある」
当時規模が大きかった戦の一つだ。
「彼らも決断したのだろう。
残りの命と引き換えに自分達を狙い来る敵を討ちさる事を」
自分達は消え、争いの種は減る。
そして毛利家に仇なす者は、一掃出来る。
実に懸命な判断だ。そして相当な覚悟を持っていたのだろうね。
「結果敵勢を討ち滅ぼし、毛利の繁栄は守られた」
「…」
「女子供も皆、一族の特殊な力と誇りの為に命を絶った。
もはや幻とされた六条家。生き残りはいない、そう伝えられてきた」
だが
「沙羅君と由叉君の二人だけは、」
六条最後の姫だけは生かされたのだ。
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