無知と知と

「お前……それは…」

「………」



目を逸らす目の前のお前は震えていた。

――沙羅が元々、手の甲に小さな紋様を持ってるのは知っていた。勾玉のような黒い紋様が円を描くように二つ。風を、空を―――天を操るこいつの能力の証だと。力を使うとその小せぇ紋様が僅かに赤く光る。

俺は気にしちゃいなかったが、沙羅は見られるのが嫌だって包帯で隠していた。別に隠す程目立たねぇよ、って言ってもこの方が安心とか抜かしやがるからしょうがねぇ…って
そう思ったあの時。
あれがこんな広がってるなんて予想もしてなかった。



「―――その顔は思い当たる節があるようだね」

「…え…」



そんな訳ない。
誰にも言わなかった。
言えなかった。

一度だけ、この刻印を見られた事はあったけど。なんの問題もなかった。
それでも。この普通でない腕を見られなくない。だからあの時はひたすらに隠していた。
少し前からそれは見られてはならないものになっていったが。




「そいつが…お前を、」




苦しめてた原因なのか




「違う…!!違うの元親、これは「その通りだよ、元親君」

「…力を使えばその刻印も広がる。沙羅の体に負担がかかる」

「察しがいい。流石は四国の長、飲み込みは早いようだね」




半兵衛の言葉は、ただ元親を苛立たせるだけ。


「だが今更、」




遅いよ



「君は気付けなかった。彼女が苦しみながら力を使っていた事に」



違う



「違、う…元親、聞い、て」

「何が違うの?納得出来る説明を言ってごらん」

「…ッ―――、」



違うのに




喋るのも辛くて




息をするのが精一杯で



それを分かっていて言う半兵衛が嫌で。
でも上手い言葉を返せず悔しくてたまらなかった。



「…優しい彼女は君に打ち明ける事も出来ないままだ」



元親を見る半兵衛。



「腕がこれ程蝕まれても、力を使った」




君の為にね




「…」





「沙羅君の能力は君も知っているだろう」



風を、天を操る力。




「彼女は、日ノ本の自然を司ってきた一族の生き残りだ」

「…自然を、司るだと…」



突然の不可解な言葉に眉根を寄せた。



「止めて…、」

「六条家…、君も一度位耳にした事はあるんじゃないかい?」

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