残された時間の中で

「―――その様子じゃ、君は聞いてないんだね」




半兵衛の口元が虎を描いていた。



「これは発作だよ」



ずっと、前から始まってた



「何だと…」



それ以外出なかった。
僅かに顔を伏せた沙羅に、何とも言えない悔しさが湧いて。でも、噛み締めるしかなくて。




「―――隠してたのか…」





そう、問うしかなかった。




「ごめ、ん…な、さい」




浅い呼吸を続ける彼女は言葉もろくに紡げず。




「馬鹿野郎が……っ」





悔しくて、ただ悔しくて。歯を噛み締めた。



「だから言っただろう?
――君の事は君よりもよく理解してる」



ビクッ、と震える彼女。半兵衛が耳元へ囁いた時だった。



「…勿論、彼よりもね」




元親の眉がピク、と上がる。




「や、やめて…」



俯いてガクガクと震えだす沙羅。耳に届くのは今にも消えそうな声。



(――――さっきから何だってんだ、)




苛立ちが募る。



「…おっと、元親君。
彼女がどうなってもいいの?」




碇槍を僅かに動かすと、呼応するように近づく関節剣。白い肌にできる小さい傷。沙羅は目を強く瞑った。血が滲む。




「テメェ…っ、」




走りそうだったが止まらざるを得ない。得物を床に突き刺した。




「ご理解嬉しいよ、元親君」




それは何よりも、敵の手にある彼女を危険に晒せないから。




「…何が目的だ」

「それは勿論豊臣に相応しい力だよ」

「ンな事聞いちゃいねぇ。
こいつでアンタ等は、何をしようってんだ」




何企んでる。
沙羅がこれ程執拗に狙われなくちゃならねぇ、その理由は何だ。

――半兵衛の瞳が揺れる。






「――…沙羅君が此処に居た一月、」





冷笑が消える。





「僕は様々な彼女を見させてもらったよ」




そして




「―――彼女が抱える定めも」

「…!」

「定め、だと…」



沙羅がはっとして半兵衛を見上げる。



「な…、何を…」

「恐らく君はまだ知らないのだろうね。彼女が「待ちな」




ただただ
 



「アンタが沙羅を知ったように言うんじゃねぇ」




苛立ちと混乱で




「君こそ、彼女の何を知ってそんな口が叩けるんだい?」

「……―――ンだと!?」



沙羅の右腕を掴む、右掌に持っていた短刀。彼女を掴んだまま鞘を抜き、床に落ちる。



「テメェ何を…」

「なら、君は知っていたのか?」

「っっ!!!駄目ッ!!半兵衛ぇぇえッ!!!」




ブチッ、

―――切られ、解かれるのは腕を覆う白い包帯。
隙間なく素肌を隠していた、右腕の包帯を巻き取り宙へ投げ捨てる。
顕になる肌。




「………なっ…、」





目を見開いた。
沙羅は目を伏せて。






「お前……、」








それは初めて見た時と比べものにならない程に








「その腕は……」







黒い紋様。螺旋を描き肩へ伸びていく
――幾数もの刻印だった。

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