迫る不安
―――ギンッ、ガキンッ
「はッッ!!」
碇槍を関節剣がいなす。変幻自在に形状を変える仕込み刀に思うように攻撃を食らわせられず、互いの刄が弾かれる。
「チィ……」
直ぐ様横縦と二段攻撃を繰り出すが、一撃目は刃に翻弄され、続く二撃目も床板を砕くだけ。
元親はその体制のまま素早く視線を後方に遣る。
「―――らぁッ!!」
瞬時に抜いた碇槍を後方へ振り薙ぐ。と、しなる幾重もの刃の束とぶつかり火花が散った。
独特の音を放ち刃の鞭は連なっていく。そして一本の剣に戻った。
微かに呼吸を乱しているのは元親の方。半兵衛はふっ、と笑み元親を見つめていた。
「――――………」
沙羅はその様子を只々落ち着く事が出来ずに見ていた。
緊張感を破り始まったこの戦。先程からこの光景が何度も繰り返されている。
元親の重たい斬撃を鞭のように不規則な動きをする関節剣がいなすだけ。
(元親………)
滴る汗。
泥や返り血に汚れ、所々に傷を負った体。
疲れていない訳がない。
略何百対一で此処まで来たと言っても過言ではないのだ。
何時も、見ていた。
だから分かってしまう。
彼の体力は限界に近いのだ。
(元親の体力を削るのも
貴方の策だったのね)
余裕な笑みを浮かべる半兵衛に確信する。
唇を噛み締めた、その時。
ザッ――…
意識が後ろへ向く。立ち上がった元就は沙羅の横を通り過ぎようとした。が、遮られる。
「…退け」
「駄目、武器を持たない貴方を此処から先に行かせられない」
「貴様に指図されずとも、我自ら取って参る。早くその手を退け」
元就の視線の先には、輪刀が転がっている。
半兵衛と元親の居る、その近くに。
「貴方ねぇ…っ、その傷は軽くない。立っているのもやっとでしょう」
沙羅の言う通り、元就は体を壁に預けたまま漸く立ち上がった様子。
息は落ち着いているが何とも覚束ない。
「行く途中で倒れられても困るわ。由叉を助けにいくのでしょう?」
彼女は下の階のさらに奥に、私がいた座敷に閉じ込められている。この大戦の真っ最中だ、警備が厳重にされているだろう。逆に言えば、彼女に危害が加えられる事はない。あとはこちらが無事にたどり着ければ。
「此処から行くには、」
手前に視線を送る。
戦う武将達。
「あそこを通らなきゃならない」
激しいぶつかり合いの最中を突っ切るのは容易くない。
「だから、もう少し戦いが収まるまで此処で休ん「誠…、長曾我部が勝てると思っておるのか?」
思いがけない言葉にはっとしてその目を見た。
「奴は既に竹中の策の内」
愚かな男よ。
血迷うて気付かぬとは。
「力に頼り、感情に任せ行動するなど…
――…ふん、所詮は智のない者。
似合いの「黙って!!」
沙羅は歯を噛み締めた。
「……」
「確かに元親は貴方程慎重じゃないかもしれない」
策より、思うまま行動する。
無鉄砲で…。
でも
「智が全てじゃない。これが元親だから」
今までもそうだった。でも勝ち続けてきたのだ。
簡単にやられる訳ない。
彼はそんなに弱くない。
―――私みたいに弱くないから。
(私が力になれたら…)
「―――…!!」
すっ、と元就をみた。
「貴方の武器…私が取りに行く」
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