消えぬ影

ドオオォォン……――




政宗、幸村が戦火を切った一方。
張り詰めた空気が巡らされていた。




「………―――テメェが、」

「…」

「全て仕組んだのか?」



低い声。
紫の瞳が、青き銀眸(ぎんぼう)を見つめ返す。




「―――いい案だと思っていたのだけれど。
一番最初の失態はやはり出来損ないの兵を使ったばかりに鬼にやられてしまった事だね」

「……!!やはり毛利の手下を誑(たぶら)かしたのもアンタか」



思った通り。
裏で糸を引いてるのはコイツだった。



「別に誑かした訳じゃない。
理解のない毛利の主君に仕えるよりは、こちらに来て尽くしてみないかと訪ねてみただけだよ。そうしたら喜んで了承を得たまでは良かったのに、」



ッ…


「―――…君が倒してしまった」

「……」



細くなる紫の瞳。
元親は眉を顰めた。



「それは御生憎様…
――と言いたいところだが、そんな安い話じゃ済まされねェんだよ」




揺れる碇槍の鎖。




「沙羅の妹を攫ったのもテメェの仕業か」

「どうも僕の計り違いだったようだ。ならず者を用いたのは失敗だった。
中国に着くや否や、元就君にやられてしまってね…――」



まさか彼女を助けるなんて予想外だったけどね
―――そう言うと半兵衛は元就を見遣った。
天守閣の隅にある、外に臨む櫓(やぐら)の傍ら。
沙羅が懐から出した包帯を元就の額の傷に丁寧に巻いていた。




―――






「…――貴様…離せ…」

「黙ってて、傷が開くわ」


キュッ、と巻いた包帯を締める。
その手付きからこの女の治療に慣れた様子が元就には理解出来た。



「…何故我を助ける」



そう
見ず知らずの者に手を貸すこの女の心が読めなかった。



「私の妹が悲しむの。
…貴方の事、本当に大切に想っているのだから」

「…妹…だと」



元就の瞳が鋭い光を宿す。



「礼を言うわ。―――由叉を助けてくれてありがとう」



貴方が血も涙もない人と言われようと、由叉を助けてくれた。
それは変わらない真実。



「……」

「今は此処で安静にしているのが一番…」



元就は何も言わない。沙羅をじっと見つめるだけ。
沙羅は立ち上がり、元親と半兵衛を見つめる。



「貴方は未だ動いちゃ駄目。私が此処で応戦するから」



背を向けたまま、衣服に潜ませていた短刀を指に挟み持つ。

その、藍色から広がる瑠璃色の瞳は強く。元親達を見つめていた。
元就はただ静かにその後ろ姿を見つめて。


―――途端
霞んで重なった、その姿。
同じような癖のある髪。
元就の瞳が僅かに大きくなる。



『『―――――元…』』



振り返り際に発した言葉に




「…――元親なら、」



色濃く重なった彼奴は



「きっとやってくれる……」



幻と消えた。





「……」




――戻った目の前の現実。
微かな面影を漂わせたまま。
だがこの女は違うのだと



「…………―――」



思い知らされて。
―――微かに揺らいだ瞳。元の細さに戻る。気付いた者は誰もいなかった。



20100822
20120824改

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