皮肉にも

「どういう事だ…」



そう呟かざるを得なかったのは、予想だにしなかった光景故に。




「毛利元就……!?」




大男が胸倉を鷲掴みし、持ち上げていた。戦で常に付ける兜は床に散々になり、輪刀は無造作に転がっていて。



「長…曾我部…元…親……」



元就はゆっくり顔をこちらに向けた。兜がなく顕になった髪はぐしゃぐしゃ、額からは血の跡。
端麗な顔立ちは、平生無表情な瞳は、今は虚ろで力無かった。

元親は言葉を失う。

あの毛利元就が、
味方を駒としか見ず、
自分は平然と人を斬り、
テメェの国の安寧だけに策を奮いやがる、




(そんな男が、
一人この豊臣に乗り込んだだと…)




「貴様…何故此処に…」

「お前達も我が天下を邪魔立てするつもりか?」



元就を掴んだ男がジロリ、横目で睨み付けてきた。その出立ち、纏う覇気…



「―――アンタが豊臣秀吉か」



張り詰めた空気を破る政宗。



「…如何にも」



刹那秀吉は元就を向こうの壁に投げた。沙羅は目を見開き両の手で口を覆って。元就は呻き声を洩らし床に崩れ落ちる。



「お、おい!どこ行く!?」

「酷い怪我よ…放っておけない…」



再び走り出そうとする沙羅の腕を強く握る。



「元、親…」

「待てよ…アイツは…!毛利は誰の力も借りねェ!これも奴の芝居の一つかも「それでも!」




俯いて。
歯を食いしばる。



「それでも…あの人は、妹を助けてくれた。
…妹にとって、大切な人だから」



放っておけないの



そう、言って。振り返らず腕を振り払うと、元就の方に走って行った。


[ 76/214 ]

[*prev] [next#]

[戻]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -