皮肉にも
「どういう事だ…」
そう呟かざるを得なかったのは、予想だにしなかった光景故に。
「毛利元就……!?」
大男が胸倉を鷲掴みし、持ち上げていた。戦で常に付ける兜は床に散々になり、輪刀は無造作に転がっていて。
「長…曾我部…元…親……」
元就はゆっくり顔をこちらに向けた。兜がなく顕になった髪はぐしゃぐしゃ、額からは血の跡。
端麗な顔立ちは、平生無表情な瞳は、今は虚ろで力無かった。
元親は言葉を失う。
あの毛利元就が、
味方を駒としか見ず、
自分は平然と人を斬り、
テメェの国の安寧だけに策を奮いやがる、
(そんな男が、
一人この豊臣に乗り込んだだと…)
「貴様…何故此処に…」
「お前達も我が天下を邪魔立てするつもりか?」
元就を掴んだ男がジロリ、横目で睨み付けてきた。その出立ち、纏う覇気…
「―――アンタが豊臣秀吉か」
張り詰めた空気を破る政宗。
「…如何にも」
刹那秀吉は元就を向こうの壁に投げた。沙羅は目を見開き両の手で口を覆って。元就は呻き声を洩らし床に崩れ落ちる。
「お、おい!どこ行く!?」
「酷い怪我よ…放っておけない…」
再び走り出そうとする沙羅の腕を強く握る。
「元、親…」
「待てよ…アイツは…!毛利は誰の力も借りねェ!これも奴の芝居の一つかも「それでも!」
俯いて。
歯を食いしばる。
「それでも…あの人は、妹を助けてくれた。
…妹にとって、大切な人だから」
放っておけないの
そう、言って。振り返らず腕を振り払うと、元就の方に走って行った。
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