戸惑いは

「沙羅」

「何?元親、」



―――あれから再び進んでいた。細い通路が続く。心なしかもう、出口は近い気がする。
少し先を政宗、幸村と共に走っていた元親。
体格差もあって沙羅は少し後を続く形だった。それに気付いた元親はスピードを落とし、横に並ぶ。



「速ぇか?」



沙羅は予想だにしなかったようで。目を大きく開き元親を見た。が、直ぐに目を閉じ、優しい表情を浮かべる。



「――大丈夫よ、このくらい。
貴方と居た時はしょっちゅうだったでしょう?」



ふわり頬笑んだ彼女は、速さを緩めるどころか速めて。

見ればすぐ分かる。
汗を掻いて息も上がり、表情こそ出てないが辛そうだった。
様々あったからか顔色が思わしくない。
なのに笑ってみせるお前を見て、居たたまれない気持ちになる。

今はこいつだけじゃねぇ
独眼竜、真田もいる。一時共闘て事で行動してるから、こいつの為だけに休息してらんねぇ。
しかも先の小競り合いで少なからぬ時間を欠いちまった。



(…わりい、沙羅)



それが顔に出ちまったんだろうな。



「元親…、」



向けられた彼女の瞳。



「大丈夫だから……」



苦笑混じりで綻んだ顔。
これ以上、何かを言う事は出来なかった。



「そうか…」

「…」

「…」

「…」

「――そういえばよ。…妹見つかったか?」



気不味くなって、何気なく言った。沙羅の眉がくっ、と寄せられて。目を逸らされる。



「見た…のね」

「じゃねぇと此処に来れる訳ねェだろ」

「…」

「どうした」



妹を本当に大事に思ってるのは分かってた。
その為に、危険を犯してまで豊臣に行きやがったんだからよ。
だが、言うのを躊躇う理由が分からなくて。



「会えたわ…」

「何だ?嬉しくねぇのか」

「―――…」



聞かれて即答出来ないのは―――。それはかねてからの願いが叶ったという事。
でもそれは。
元親には言えない。
いいえ、今はまだ言うべきじゃないと思った。

―――元親は訝しげに眉を顰めたが、ヤレヤレと溜め息を吐いて。頭を掻き、ぶっきら棒に返す。



「…たく、後でしっかり話せよ」



一言。
たった一言なのに込められた彼なりの優しさ。
思わず喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。



「有難う…、元親――」



ごめんね元親。

この戦が終わったら絶対話す。



私の、私達の全てを――――。




「――Look!!」



刹那、政宗の声。
前を見た。



「そろそろだ…」



迫る光。
出口。
その中へ4人は突き抜けた。




―――






「………っ――」



目が痛い。長い事暗さに慣れていた目が、天守の明るさに慣れるまで時間が掛かった。



「!?アンタは……――」




はっ、と息を呑んで。
元親は愕然とした。



20100731
20120823改

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