強い抱擁

ガギ!!!



頭上で響いた金属音。恐る恐る、目を開けた。



「無謀だねぇ、沙羅は」



目の前には風魔と、そしてわたしの間に入り武器を止めている佐助がいた。大きな手裏剣と風魔の対刀、私の刀とクナイが交差していて。



「佐助…」

「風魔は俺に任せろっていったでしょ、さぁ今のうちに行きな!アンタが行くまでが俺の仕事なの」

「佐助ぇ!!!」



幸村が叫ぶ。



「すまぬ!!此処は頼んだ!!
某達は先に行くが、お主も早く来るのだぞ!!」

「…はいはい、分かってますって」



給料上げてくれよ、と付け足す。佐助と風魔は目に見えない早さで互いの武器を離した。そのまま戦いは外に移り、見えなくなって。



(ありがとう、佐助)



沙羅は再び走り出した。




―――




「――…沙羅っ!!!」


バ――…

元親が抱き締めてくる。厚い、堅い胸板。男の人の太い腕。久しぶりに感じた、彼の体温。今までで一番強い抱擁で。



「痛い…」

「わ、悪ぃ」



力を緩めてくれる。



「…馬鹿――、無理して此処まで来て…」



頭に伸びる精悍な腕にそっと触れる。ずっとこうしていたい。彼を抱き締めたい。でも不器用な私には今、これ以上為す術がなくて。



「黙って一人で抱えやがって…お前の馬鹿に付き合うこっちの身にもなりやがれ」

「…悪かったわよ」



強がって都合良く逃げようとして。素直になりたいのに――…

元親は小さく溜息を吐く。彼の心の臓の音。しっかり耳に届いてほっとして、少しの間目を閉じた。彼はゆっくり離れる。



「…ったく、
――でよ、お前竹中が何処に行ったか「whew!アンタらloveloveだなぁ、おい
あれか?――もう初夜は済んだのか?」



突然割り込んできた政宗。最初意味が分からなかった。互いに顔を見合わせて、硬直する。



「ンなぁぁあッ!!!」「きゃあぁぁあッ!!!」



同時に叫んで赤くなって。一気に距離を置いた。



「ah?まだなのか?」

「いきなり何言い出しやがる!!!
…いや、まぁ、裸を見たこたぁあるが…ってぇ!てめ!!何しやがるっ!!「最っ低!、ここでそれ言うの?あれは不可抗力じゃない!!最低!!馬鹿!!変態!!」
「熱出してブッ倒れてたテメーが悪いだろうが!!助けてやっただけありがたいと思いやがれ!!ってか何だ変態っておい!!「変態を変態って言って何が悪いの?少しは反省すれば!?「ンだとこの野郎!?「ahーーー!分かった分かった」


政宗が二人の間に割って入って。



「その話、後で詳しく聞こうじゃねぇか、裸のくだりとかよ」

「は!?」



真っ赤になる沙羅。楽しげに見る政宗。



「…政宗殿、一体初夜とはなんの「おわぁぁあっ!!もういい真田!!」



再び思い出す。真面目な顔で問う幸村。よかった、裸は聞こえていなかったらしい。



「知りてぇか?真田幸村」



楽しげにくつくつと笑う政宗。頷く幸村に



「…お子様にゃまだ早ぇ」



そう返し笑う。



「某は子供では御座ら「ああああ!!!もういい!!!んな話してる場合じゃねぇだろうが!!!」



政宗と幸村の間に割り込んで、2人を制する。



「今は早く豊臣をぶっ倒しに行くべきだろ!!」



遠く背を向けたままの沙羅を一瞥する。



「――…沙羅」

「…」

「沙羅!!」

「えっ!?」



肩をこれまでない程大きく震わせ、振り向く。



「……最低」

「ンな顔すんなって…。てかだからもう掘り返すなっつーの…。本題に戻るぞ。
――こっち来い」



元親は逃げる沙羅をなんとか捕まえ、謝り続けたのだった。




―――




「―――で、まぁ…さっき俺が言い掛けた続きなんだが…」



とはいえ頭から完全に払拭するのは無理だった。裸の事より正直初夜の事しか頭にない。互いに意味を考えて、想像してしまっていた。無い出来事を想像してしまうから。彼女の顔をまともに見る事が出来ないまま、元親は続けた。



「竹中が何処に行ったか心当たりあるか?」

「…えぇ、――この、壁よ」



沙羅が触れた何の変哲もない壁。政宗がそれを押してみせる。すると反転し先には、隠し通路。光が無い階段がそびえ立っていた。



「――ハァン、隠し扉って訳か」

「…この先が、天守閣――最上階まで続くわ。そこに半兵衛は行った筈よ」

「…此処が天守閣じゃねぇのか?」

「下から見れば分からないと思う。まだ先があって…上っていくと此処より広い場所があるのよ」



複雑でしょう、この城って。そう言い苦笑する。



「では急がねば!!佐助の為にも行かねばならぬ!!」



幸村は壁を押し中に入っていく。政宗も消え、元親も暗闇に消えていった。



「…」



急に静まり返った辺りを見回して。



どうしてか、胸を撫で下ろす。



「馬鹿野郎っ!!何してんだ」

「!」




降りてきたのは階段に消えた筈の元親で、心臓が再び早鐘を打つ。



「…ほらよ、」



ふと向けられた。差し伸べられた手。顔を上げると見えた。くいっ、と口元をあげて、暗闇に差し込む光に反射する。鋭く光る、銀の髪と青き瞳。銀に照らされた海の色。



「さっきの事は…気にすんな」



手を出すのを躊躇っていると分かったのか、苦笑して。



「独眼竜は…ああいう奴だからよ」



お前が気にする事じゃねぇさ



俺達は今まで通り一緒に居ようぜ



「来いよ――…」



一緒に



「えぇ――…」



その大きな手に、手を伸ばした。そう、一緒に居られればそれでいい。それ以外望まない。それだけで十分なのだから――…。

指先が触れる。途端、グッと腕首を掴まれて。



「行くぜ?」



彼が口の端を持ち上げ笑って。引かれる腕。元親が駆け出すまま私も走り出していた。



強い抱擁
(どうかこのまま)
(この手を離さないでいられたら)

第2部完

→あとがき

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