「旦那には困ったもんだ…」



はぁ、と溜息を吐く。



「…あの、」

「ん?」



沙羅は声を掛けられず、ずっと佐助に抱えられたままで。



「って武田の忍さんよぉ!確かにあんたいつまでそいつを抱えてんだ!」

「―――…ああっと!!悪かった鬼の旦那!」



(こっちの旦那も旦那で)



面倒だねぇ…、とピリピリした元親の視線にやれやれと下ろす。



「ごめんね!知らない奴に抱えられてびっくりしちゃったでしょ?」



佐助は彼女を丁寧に下ろし、「アンタも大変だねぇ」とこそり呟く。沙羅は「そうね」と苦笑し、佐助は懐から取り出した二本の刀を差し出した。



「これは…」

「アンタのでしょ?鬼の風刃、沙羅ちゃん」

「えっ?」



鬼の風刃…



「有名だよ、長曾我部軍に突然現れ風に舞う二刀流使い。鬼の旦那に仕えてるってね」

「別に…仕えてる訳じゃない…事情があって少し…」

「…ふーん」



佐助は目を細め沙羅を見つめる。爪先から髪の一本一本まで余す事なく見る視線に、居心地が悪い。



「助けてもらった上に、取ってきてくれて有り難う。でも…何か?」

「……――沙羅ちゃんって、強いんでしょ?」



突然の質問の意図が掴めず首を傾げる。笑っていたが何か意図があるように思えて仕方がない。



「…安心して。武田に仇名すつもりは毛頭ない。それに貴方が思う程じゃないわ。
―――貴方の方が強いんじゃなくて?武田軍忍隊隊長猿飛佐助様」



佐助が一瞬目を細める。が、すぐにこっ、と笑って。



「あっちゃー、知ってたか」

「さっき呼ばれていたでしょう?」



(ふぅん…――)



佐助は観察の目を怠らなかった。



只の流れ者じゃないと



「…うん、呼び捨てでいいよ」

「え?」



沙羅は切れ長の目を丸くして。



「まぁこうして会ったのも何かの縁だし、今は敵―――じゃないしね」

「…あら、そう」



少し訝しげに見る沙羅を



(同郷のあいつみたいで)



「アンタみたいな女、嫌いじゃないしね」



と笑う。



「じゃ、…佐助。私の事も別に呼び捨てで構わないわ」

「了解〜」

「っておい猿飛!そいつを助けてくれた件は感謝するが何親しくなって――」 

「元親うるさい」

「あぁン!?」



始まる痴話喧嘩。その時だった。



「――滑稽だね」
「「「「「!!!」」」」」



全員が、聞こえた声の方に振り向いて。瓦礫で埋もれたこちら側とは逆の広間。腕を組み壁に寄りかかっていた半兵衛の双眸の瞳が元親達を見据えていた。



20100523
20120820改

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