矛盾、それは愛しさ

「――元、親…!?」



(嘘、でしょ…。どうやって此処に、こんな所まで――…)



沙羅は突然の出来事に動揺を隠せないでいた。しかし、



(…そうよ)



こんな所まで元親が来る訳ない。
そんな無謀な事、する訳がない。
仲間の事を大切に思う彼なら。

―――一国の当主なら。



夢なら覚めて―――…。



「待ってろ、今――」



そう思っても近づいてくる彼に、これが現実だと思うしかなかった。



(駄目…)



「来ないでっ!!!」



元親の脚がピタリ、止まる。沙羅は俯き静かな声で続けた。



「何故…来たの」

「――…何?」



夢でないのなら



言わなければならない。



「誰が来てちょうだい、って頼んだの?私は…自分の意志で此処に来た」



私といる事で傷つけたくなかった。



賢い貴方なら、一国を預かる貴方なら、



私一人の為に此処を攻めないと思った。



そうでしょう?―――…




「てんめぇ……」



元親は眉間の皺をぐっと寄せた。



「嘘も大概にしろッ!!!
誰の為に来てると思ってんだッ!?」




誰の為

…ズキンと胸が、痛む。



「――るっさいわね!!!
いつそんなこと頼んだのって言ってるじゃない!!!貴方こそどうかしてるんじゃないの!?こんな所に乗り込んで何がしたいのッ!?命知らずも此処まで来ればただの馬鹿よ!!」

「ンだとッ!?
やってみねぇと分かんねぇだろうがッ!!」

「その考えが馬鹿って言ってんでしょう!?
貴方だって分かってたじゃない!豊臣の兵力を!」



唇を噛み締める。



「貴方死にたいのッッ!?」



突然静まる。
沙羅はさらに俯いた。



「お願い………帰って…――、」

「………」



声が弱々しくなる。
それは四国で“最後”に聞いた




『――…言えないの……
ごめんなさい…』





泣いている時の声だった。

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