『覚悟』

此処に来る時点で出来てると思ってた。野郎共に話を持ちかけた時の俺は自信と希望を何処か持ち合わせていた。不安げな子分達を鼓舞して意気込んでいた。
なのに今はどうだ?俺は野郎共の『覚悟』を踏み躙ろうとしてる。戦の目的がまだ果たされていないというのに。




俺が




『…彼女は豊臣が貰っていく』





カタをつけなきゃならねぇってのに。




俺がするのは




「俺が戻ンまで誰一人として死ぬんじゃねェぞ!!
――生きて戻ってこい!!!

「承知しましたぜアニキ!!」



――バン、




子分達の声が元親の耳に届いたのを確認したかのように床が元通りに閉まる。野郎共の成り行きを見届けられないまま。



だが




『生きて還るって誓いを忘れるな』




この言葉が長曾我部軍の約束。どの軍よりも、"繋がり"を大事にする誓い。きっと、大丈夫。あいつ等はこの俺、長曾我部元親の部下だ。こんなところでくたばるようなタマじゃねぇ。




―――元親の瞳に迷いはなかった。立ち上がった瞳に映ったのは上へと続く階段。



「セコいやり方しやがって…思い知らせてやる――――」



恐ろしい程静かな怒りを秘めて。
その低い声を聞く者は誰もいなかった。

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