刻々と

何処までも階段が続く。途切れる事なく続くそれに元親は舌打ちをした。



(…何て数の段だ。一体何処まで上りゃ天守なんでい……)



小さくなった山々が遠くに見える。此処まで一体何人相手したのか。はっきり覚えていないが。千は越えたと思う。雑兵ばかりだがまともに戦い合ってるとなりゃあこちとら体一つ。




「………」



厄介だな―――…。眉を寄せれば垂れる一滴の汗。



(沙羅)



『―――…元親』




気付けば沙羅との記憶を辿っていた。



浜辺に行ったあの日を――…




『貴方は…進み続けて』




隣に並ぶ沙羅の言葉に首をかしげた。夕日が沈みかけて海に反射する。



『何だ?急に』



その横顔が微笑み元親に向く。



『――だからこのまま』



貴方らしい貴方でいてちょうだい
―――そう言って。輝く夕日。彼女の瞳の中、散々として瞬く。




『?なんかよく分かんねぇが…』




頭を掻いて。



『お前に言われなくたって、俺は進み続けるぜ?この海が続く限り、海風が続く限り…』



お前にこの世の宝、全て見せてやるまではな―――…




はっとした。そうだった、どうして忘れてた?

―――確かに豊臣は今一番天下に近いと言っていい軍。兵力も、それを束ねる奴の力量も別に見くびっちゃいねぇ。だからこそ、



(――どうして一気にかかってこない?)




今俺達は天守閣へと上り詰めている。確実に詰めているのだ。しかし、兵の数は最初と一向に変わらない。



(奥の手を隠してやがるってことか?)



雑兵達を薙(なぎ)払い、沸き上がる煙の中。兵を総括しているのは奴の策なのだろうと思い元親は見回した。
だがこいつらを指揮する奴の姿は何処にも見当たらない。



(何がある…?)




まるで



(誘ってやがる―――)




冷静にそう考えを下す。だとしたら、面倒だ。野郎共もかなり体力を消耗している。傷を負ってボロボロな奴もいる。でも一生懸命ついてきやがる。



元親は走りながら子分へ振り向く。



「…天守は目と鼻の先だ。
オメェらもう少しだけ踏ん張りやがれ!」

「うおぉぉぉぉおアニキィィ――」



ガッ、


「「えっ」」



突然聞こえたそれは何かが外れたような音。

誰が予想出来ただろうか。

―――床が突然開くなどと。

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