4ヶ月。
長いと言われれば長かったし、短いと言われれば短いとも感じた。ただ言えることは、つまらない4ヶ月だったということである。
4ヶ月をいかに自分が無駄に過ごしたかが、仕事のシフトしか埋まっていないスケジュール帳から伝わってきて虚しくなった。
頭の中と携帯の送信メールと発信履歴は"土方十四郎"の文字ばかり。
そう、私は4ヶ月間一度も土方さんと接触していない。というか連絡が来ないのだ。
たぶん仕事が忙しいんだと思う、
この都合良い理由を何度自分に言い聞かせただろう。その度に、悲しくなって、でも言い聞かせることしか自分を保てない自分が嫌になった。
携帯なんかに恋の行く末を左右されたくないのに。私と土方さんが繋がれるのは悲しきかな、携帯だけだ。
恋仲ではないからこそ余計に辛い。
もともと私の猛アタックが実を結んで連絡先を交換して、何回か食事に行った。
でもやっぱりそのときは楽しくて幸せでも、ひとりになって考えると私だけ一方通行のような気がして、連絡が来ないとその不安は確信へと変わっていくのだ。
もともとマメな男ではないことも忙しくて大変な仕事に就いていることはわかっていた。でもここまで放置プレイされるとは思っていなかった。
最初は連絡先がゲットできればそれだけでよかったのに、どうしてこんなにも欲深くなってしまうんだろう、
「で、あんたはどうしたいのよ」
塩の効いた枝豆をぱくぱく口に放り込み、生ビールが半分残ったジョッキを持つ友人。酔いの回った赤ら顔でこちらを見た。
江戸の小さな居酒屋。焼き鳥がじゅうじゅう焼かれている前のカウンター席で私と友人は久々呑んでいた。
「分かんない。元気にしてるかなって、気になるだけ。メールも電話もないから」
「オカンか」
私の悩みはその4文字で気持ち良く片付けられた、気がした。反論ができなくて、無言が流れる。お酒なんか普段飲まないけど無理矢理頼まされた生ビールをひとくち飲んだ。苦い、そしてぬるい。私の心とおんなじ。
「ていうかさぁ、」
フライドポテトをケチャップの入った小皿につけながら友人は喋り出した。
「普通なら、何回も連絡来たら1回くらい連絡するでしょ。それに4ヶ月もあったらさ、いくら大きい仕事でも終わるんじゃね?」
「そ、うかな‥」
自分の中で認めたくない、目を瞑っていた問題がグサグサ刺さる。やばい、超痛いんだけど。
「そうだよ、うちら若いんだからさ、そんな脈ナシ男やめて次いこ次!ねーっおにいさん」
いよいよ酔いが本格化してきたのか友人が左隣に座る私、ではなくカウンターで焼き鳥を焼く従業員、でもなく
ばたっ、
右隣に座る他人の肩にもたれた。
「ちょっと、何してんの!あのすいません、ほら起きて」
だらーんと完全に向こう側へもたれかかっている友人を急いでこちらへ引き寄せる。
「いや構わねーよ」
ふと耳に入ってきたその声を、聞いたことがあった。正しく言えば聞きたかった声、だ。体の動きが止まる。
「ひ‥ひじか、たさん」
どさりと友人がこちらへ倒れてきて見えた横顔。そこには4ヶ月ぶりに見た大好きなひとが座っていた。
「おう、久しぶりだな」
土方さんはあまり驚いてないようで、タバコをくわえたままこちらを見た。
髪、短くなってる。しかも何か痩せた?前よりもスリムになってる。
「‥‥‥」
最後に会ったときがいかに昔かと痛感しながらも、会えたことの方がたまらなく嬉しくて。
「あのっ、元気でしたか?‥髪切ったんですね」
ダメだ。うまくしゃべれない。混乱している自分を隠そうとわざと明るい声を出すほどボロが出ているみたいだ。
「オカンかおめーは」
くわえタバコのままフッと笑う土方さん。かっこいい、やっぱりかっこいい。
ていうかちょっと待って、今土方さんなんつった?
「えっ、土方さん今なんて‥」
「おめーは俺のオカンか」
「あはは、やっぱりそうですよねありがとうございます」
‥NOォオオ!これ絶対さっきの話聞いてたよ!やばいよ、本人ご登場で嬉しいとか舞い上がってる場合じゃないよ、丸聞こえの筒抜けじゃァねーかァア!
確実にアルコールではない熱さが全身を駆け巡る。どうしようこの先どうすればいいの!
「悪ィ、」
気持ち良さそうにうとうとする友人のアホ面を見ながら、どうやり過ごそうかと考えていると土方さんが口を開けた。
「ずっと連絡できなくて」
「えっ」
この瞬間私と友人の会話が聞こえていたことが確実になったが、それ以上に土方さんの言葉が気になった。今私に謝ったの?
「今度埋め合わせすっからよ」
そう言って席を立つ土方さん。どうやらひとりで来ていたようだ。
「違う‥」
ちょっと待って、こんなの違う。こんなの嬉しくない。そんな無理矢理の笑顔いらないよ、私の話を聞いて悪いと思ってるならそれは誤解だ。嫌なら埋め合わせなんてしなくてもいいよ‥。
何とも思ってないなら同情なんていらない。そんなのまた惨めになるだけだ。そんなの優しさじゃない。
そんな言葉はいらないよ
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