今年初の冷やし中華を食べ終えて夏キターなんてクーラーの効いた部屋でくつろいでいると、チャイム音が鳴った。 この間通販で頼んだ小顔ローラーかな?
「はいはい、」
「どーも、隣に越してきた‥名前?」
「ぎっ、銀時‥!」
玄関を開けた目の前には宅急便ではなく銀時が立っていた。何でこんなところに、しかも私を訪ねてきてるのさ!突然の出現に心臓はばくばく。鼓動が強すぎて冷やし中華の麺が飛び出しそうだ、堪えろ私。
「ひ、久しぶりだね」
高校以来だからえぇーと10年ぶり?背伸びてるけど大丈夫? 顔立ちは変わってないけど高校の時より垢抜けていた、心なしか銀髪パーマがカッコよく見える。
でもそのTシャツ、高校のときも着てたよね。こういうところは10年前と変わらないなぁなんて一人懐かしくなった。
「おま‥何で‥地元に住んでただろ?」
「大学まではね。仕事始めてからはここで一人暮らししてるの」
「‥そっか、」
同級生でもある、元恋人が同じマンションの、しかも隣に引っ越してくる確率はどれくらいだろう。
‥私、文系だったからさっぱりだ。えぇーとこういうのは理系だったトシが得意だったわ、うん。
つまらないものですが、と渡すつもりであろう菓子を持ったまま突っ立っている銀時は私よりも数倍驚いていた。 そりゃあ10年前フッた女が隣人だったら驚くか、いやー世間って狭いよねホント。
「一緒にいても楽しくねぇんだわ」
あの日の、別れを告げられた日の銀時が突然頭に浮かんだ。あれは高1の終業式だった。これから楽しい夏が始まるってとき。まだはっきり覚えている。良い思い出より嫌な思い出の方が記憶に残るっていうのは本当らしい。
「‥これ食う?」
「うん、ありがと」
あれから10年、あの頃は泣いて泣いて泣きまくって恋なんかするもんか、男なんか知るもんかと。銀時を恨んだけれど。
縁があるのか今こうして彼と再会し、言葉を交わしている。あの頃の私には想像できないことだ、人生って不思議。
「うっ‥うぅっ」
10年前の私、アンタそんなに落ち込まなくてもいいよ。10年後の暑い夏の日に、また銀髪に会えるから。超でかくなっててバカみたいな顔して隣に越してくるから、
もう涙も傷も吹っ切れて普通に会話できてるよ、私。
「これからよろしくお願いします」
「へぇー敬語覚えたんだ」
「‥お前は憎たらしくなったな」
憎たらしいだって?やだね銀時クンこれくらい言わせてよ、
ねぇ、もう気づいた? (あの連載の番外編だってこと) いつかアフターストーリー的な短編を書きたいとあとがきで言っていたのですが、いつの話してんだよってくらい時間経ちました…もう誰も覚えてないと思いますが暗〜い連載だったので、こういうのもあってもいいかと。
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