「行ってくる、」


刀を腰にさして、私に背を向けて、手を振るなんて可愛いことはせずに、総悟は出ていった。


誰もが明日を生きることは絶対ではない、それなのに私たちは当たり前のように明日を思う。
当たり前のことのように、明日を生きることがどれ程幸せなのかも知らずに。


総悟がそこらの攘夷浪士などに殺られる男ではないことは解っていた。適当に刀を振り回し、都合良く攘夷浪士などと名乗る輩なんて彼の足元にも及ばないだろう。


それでもやっぱり私の中から不安は綺麗に拭いきれない。信じていないわけではない、むしろ総悟の強さもその魂も信じているつもりである。
でも世の中には理不尽なことばかりだ、どうしても理解できないことが身の回りに起きるものなのだ、


「行ってくる、」


意味もない、尊い命が失われる苦しみは計り知れない。さっきまで一緒に笑っていたのに、ほんの数分前までその命は動いていたんでしょう。ぬくもりがあって、笑顔があって、私を呼ぶ声も。


愛する人がこの世から、自分の目の前から突然いなくなる。どれだけ追いかけてもどこにもいない、もう二度と会えぬ遠い遠い世界へと何も告げず行ってしまうのだ。しかもそれは不意に心臓を刺されるような、自分の終わりをも告げられるように突然やって来る。


まだ言いたいことがあった。

まだ行きたい場所があった。

あなたの温もりが足りない。

もっと一緒にいたかったのに、


「総悟‥」


すべて溢れる、ときすでに遅し。


せめて‥ありがとう、とだけ最後に言いたかった。


この時代に同じ世界で出会ってくれてありがとう、
愛し愛される喜びと素晴らしさを教えてくれてありがとう、
そして、私はとても幸せです、と。










「何勝手に俺を殺してんでィ」


「いでっ‥総悟ー!」


遅かったじゃないと抱きつこうとする私をいつものように本気で叩く総悟。


「私が悲しんでたから?霊になって来てくれたの?」


「アホか、言っただろィ俺は刀鍛冶屋に行ってくるって。それをオメー‥まるで殺されたように語りやがって」


屯所の玄関でどんな被害者妄想してんでィ、と呆れ顔の総悟。何よ、こっちは昨日総悟が死ぬ夢を見たから心配したのに。結野アナの占いで蟹座が最下位だったから不安だったのに、


「名前、何でオメーはそんなに心配すんでィ」


「アナタノコトガスキダカラ!」


「チャン・ドンゴンかてめぇは」





Don't take it literally.
She is inclined to exaggeraate.
(そんなこと真に受けちゃダメ、
彼女は大袈裟に言う傾向があるからね)


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