「動き、ないですね」
「まだ1時間しか経ってないからね」
私と山崎さんが見つめる先は大きな倉庫。私たち監察が追い続けてやっと突き止めた攘夷組織のアジトである。
副長に張り込みをするよう指示されてから3時間、身支度をして用意された港のオンボロアパートの一室には私と山崎さんと大量のあんぱんと牛乳。
山崎さんと仕事柄行動を共にすることが多いので、自然と(?)あんぱんと牛乳は張り込みのルールになってしまった。今では他の隊士たちからあんぱんマン'Sというコンビ名までつけられている。
「名前ちゃんって本当せっかちだよね、張り込みには辛抱強さが大事なんだよ」
隣であんぱんを貪り食う山崎さんはきっと、このあんぱんマン'Sというコンビ名を私が気に入ってることなど知らない。
張り込みということは山崎さんとしばらく一緒にいられると仕事にも関わらず、私がテンション上がっていることも知らないだろう。
いいんだ、それで。別に片想いだからって辛いことはあまりない。山崎さんはモテる部類の男ではないから色恋でライバルが現れることはないだろうし、同じ監察という仕事だから一緒にいれることが多いし。
唯一、辛いことと言えば山崎さんに好きという気持ちがバレないように、私は日々生活しなくてはいけないことである。 相手が監察だからね、他の人よりも神経を使うんですよ、やっかいな人を好いてしまったわけなんですよ。あーやだやだ。
「名前ちゃんも、あんぱん食べる?」
ここへ来る前に大量買いしたあんぱんをひとつ差し出す山崎さんからそれを受けとる、
「‥フリして山崎さんにスパァァアアアキング!」
「んぐわァアア!」
顔面にあんぱんを食らってその場に倒れ込む山崎さん。おーさっすが、山崎さんとミントンの素振りを頑張った甲斐があった。努力の成果がこんなところで咲くとは。
「ちょ、名前ちゃん本当に俺のこと好きなの!?」
パンとあんこで気持ち悪く仕上がった山崎さんが起き上がって目の部分だけ、あんぱんをぬぐう。
「‥え、何がですか」
「隠さなくていいって、もう気づいてるから俺」
「‥‥‥‥」
「名前ちゃんは俺のこと好きなんデショ?」
「山崎さんさようならお世話になりました切腹します」
「ちょっとォオ!大袈裟だよ」
刀をしゃきーんと抜けば慌てて私の手をとる山崎さん。その手はあんぱんでベタベタしていたけどあったかくて、胸が苦しくなる。 そんな、気持ちがバレていたなんて。必死で隠してるつもりだったのに、
「何でそんなに隠したがるの?」
「だって副長に殺されます。」
「それは名前ちゃんが入隊したての時に言ったことでしょ?副長は色恋で仕事に不真面目なるなって言いたかったんだよ」
やれやれと半ば呆れ気味の山崎さんは顔のあんぱんをティッシュでぬぐう。
「それずいぶん脚色してません?知りませんよ私、責任は負いかねます」
「駐車場の注意書き?」
分かりにくい突っ込みだなと思いつつ、じゃあ山崎さんは私をどう思ってるのかとても気になった。私の気持ちに気づいていたなら今までの態度は‥
「俺もね、好きだよ……うん」
「‥は」
「名前ちゃんのこと」
あんぱんがぬぐいきれていないその顔がリンゴのように真っ赤に染まって、私の鼓動が速くなって。
「‥山崎さん、とりあえずもう一回スパーキングしていいですか」
「え、なんで?」
このあと、私たちが告白し合っている間に張り込み対象の敵が逃げたことが発覚しました。
思い出は始末書から (局中法度に隊内恋愛禁止増やすからな) (副長、恋愛は自由ですぞ!) (おい山崎あんぱん持ってこい)
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