「ごめん、」


愛しているから信じてるとか、信じているから疑う心配なんてないとか、そんなの所詮、何の意味もないただの綺麗ごと。


わかっていたはずなのに、どうして今‥俺は愛だの、運命だの否定していたそれらにすがりついているんだ。


目の前の彼女はとても小さく正座していた。まるで自分を護るように閉じ籠っているように見えて、腹が立った。


「ごめん、総悟」


名前は泣いていた。長い髪が垂れ下がるように下を向く彼女。罪悪感で俺の顔は見れねぇってか?


「ゆるさねぇ」


本当は今すぐにでもたたっ斬ってやりたい、その泣き顔で涙が枯れても許してくれと俺に懇願してほしい。


「ごめっ、んなさい…」


でも俺の中では、怒りよりも彼女を占める気持ちが大きかった。


なかったことに、彼女が過ちを犯す前まで時を戻してくれれば、とあり得ないことさえ願ってしまう俺は愚かだ。


ごめんなさいとしか言わない名前の肩を掴む、今の俺には彼女の話を聞くとかそういう余裕はこれっぽっちもなかった。


ただ焦っていた、とんでもなく怖かった。
もしかしたらすぐそこまで迫っているかもしれない"時"に。


「俺だけだって言え、」


「そ‥ご」


「俺がいねぇと生きてけねぇって、言えよ!」


そう言えば許してやる、全部なかったことにしてやる。


だから、


「ごめんなさい‥っ」


離れていくな、謝るんじゃねぇ。
俺にはお前しか‥名前しかいねぇんでィ、


女々しい台詞でも何でも、今なら言えると思った。それで彼女が戻ってきてくれるならどんな愛の言葉でも、誓えると思ったのに。


「ごめん、総悟」


「‥‥‥」


もう、俺が信じたモノは俺から滑り落ちていった後だった。


‥本当は分かっていた。
彼女の中で俺よりも誰かを思う気持ちの方が大きくなってしまって、それを俺なんかが止めることなんかできねぇことも、分かっていた。


でも、俺たちは愛し合っていただろう。
信じ合ってたはずだろう。


幸せだった頃の記憶を引っ張り出す。
だがその記憶にはもう愛はなかった。


力が抜けて名前の肩から離した手にポタッと彼女の涙が堕ちた。


「名前、」


それはあの頃のように温もりを含んでいない。ただ冷たく堕ちるだけの感情に、もう希望は見つけられそうになかった。




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