手を繋いで歩くカップル、サンタの格好をしてケーキ販売する人、「イベント?関係ありません仕事中です」フェイスのサラリーマン。


クリスマスイブ、午後1時過ぎの大江戸駅にはたくさんの人が溢れ返っていた。


「‥‥‥」


どこからかクリスマスソングが聞こえて小雪がちらつく中、私はひとり突っ立っていた。もう15分はこの状態である。


寒い。あー寒い、あとどれくらい私はここに突っ立っていればいいんだろうか‥寒い。


「名前、」


ふと後ろから聞こえた声に、小刻みに震えていた体が止まった。やっと来たな、彼女を極寒の中ひとり待たせやがって‥!女にとって冷えは天敵なんだぞ。


睨みをきかせてゆっくり振り返る、視界に入った銀色頭には雪がちらほらと乗っかっていた。


「いやァー今日さみーな」


「こっちの台詞!遅いわァア!」


べしっとわりと本気で肩を叩いたら、銀時がニヤついた。え、何?あんたMじゃないでしょ。


「オメカシしちゃってぇー気合い入ってんの、銀さんとのデート意気込んでんのォ?」


どうやらいつもと違う私に気づいたらしい。そうだよ今日の私はアニマル浜○よりも気合いじゅうぶんだコノヤロー。


「‥‥‥」


でも直球に言われるのはとんでもなく恥ずかしい、何も言い返せなかった。


「悪かったな、会いたくて会いたくて震えるまで待たせちまって」


「西野カ○じゃないから、寒いから震えてんの分かれよバカ天パ」


ふいっと顔をそらしても銀時がニヤついてるのが分かった。悔しい、いつもと違うことに気づいてくれたことは嬉しいけど何だこの負けた感じ。


「怒んないのー、ほら行くぞ」


そっと私の手を握るは暖かく大きな手。私の手の冷たさにえ、生きてるこれ?と驚いた銀時。


ぎゅっと握り直された私の手はすっぽりと銀時の手に包まれた。じんわりと仄かな温もりが冷えた手を溶かしていく。


これだけで満足してしまう、
あったかくて安心すると思ってしまう、


「今日は銀さんぷろでゅーすでーとだから楽しみにしろよ、」


隣で楽しそうに微笑むこのバカ男に胸が高鳴っている。鼻唄なんか口ずさんじゃって‥


「あ、そうだこれ先に渡しとくわ」


懐に手を突っ込んで何やらごそごそしたかと思えば、小さな包みが出てきた。


「何これ、」


渡されたその包みをそっと開けると、高級そうな簪が姿を見せた。お姫さまがつけているみたいなそれを手にとると飾りの部分がシャランと揺れた。


「銀時、」


「んあ?かわいいだろ、万事屋の依頼3件分。まァ神楽と定春の食費に比べりゃ半分以下だけどな」


今までプレゼントなんかくれたことなかったのに、しかもこんな可愛くて高そうなもの‥どういう風のふき回し?


もちろん嬉しいけど驚きの方が大きくて、どんなリアクションをとればいいのか分からない。


「本当はあとでにしよっかなぁとか思ったんだけどさ、名前オメカシしちゃってるしぃ?それ似合いそうだし早くつけてほしかった、わけよ」


「‥っ!」


途中で恥ずかしくなったのか声量が小さくなる銀時を見て、私の方が恥ずかしくなってきた。
いつもは"冷蔵庫のいちご牛乳とってきて"とか"出掛けんのめんどくせーからウチ来れば?"とかそういうことしか言わないのに。これ本当に銀時ナンデスカ?


「ヒル・ヒル・ヒルナンデス〜♪」


「聞こえてたんかィイイイ!」


「おーやっとツッコミ復活したな」


「はっ?」


「‥お前が照れてんの見ると、俺も緊張すんの。もらいげろと同じ原理なの」


「聖なる日なのに例えが悪すぎるよ」


銀時もこんな素敵なサプライズできるんだね、そう言うと銀時は一瞬驚いたあと得意気に腕を組んだ。



「俺を誰だと思ってんだァ、名前は」


私の手から簪をひょいっとつかみとって一歩こちらに近づく銀時。


後ろにまとめた髪にそっとそれは刺された、ドキドキしながら顔をあげるとシャランときれいな音がした。銀時はこれをどんな思いで買ってくれたんだろう、そう思うと瞬く間に胸が締め付けられた。


似合うとかかわいいとかそんな言葉はいらなかった。


だって銀時がとても優しい目で私に微笑んでいてくれていたから、





(ありがと。大事にするね)
(おー大事に使え。経営難になったら質屋行きだから)


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