「土方さんて、肘に肩があるんですか。それとも肘にカッター忍び込ませてるんですか」
至って真面目にそう聞いてきた新人が入隊してもう1年が経つ。
「懐かしいなぁ、名前ちゃんそんなこと言ってたなぁー」
近藤さんと今年の入隊者リストを見ながら、話題は名前の入隊直後の話になった。
「今でも報告書に肘肩さんとか書きやがる」
ペラペラと紙をめくりながら、さっきまで見ていた名前の報告書に書かれた俺の名前を思い出した。なんだよ肘肩って、そっちのが書くの難しいだろ。
「名前ちゃん、1年で大きくなったよなぁ。もう名前ちゃんが先輩か」
近藤さんが腕を組みながらうんうんと頷く。
「何言ってんだ近藤さん、今日もパトロールさぼって虫採り行ってただろ、何も成長してねぇよ。先輩なんかなれるかってんだ」
「あぁ、だからさっき虫用ゼリー何味が良いか俺に聞いてきたのか」
「何で近藤さんに聞くんだ」
「虫とゴリラは味覚が一緒らしい」
「‥ぜってぇ違うと思うわそれ」
相変わらず何やってんだあいつは。一通り確認し終わった入隊者リストをファイルにまとめながら時間を確認。
「もう7時か、近藤さん晩飯「お妙さんのところに行くから食堂はパース!」
瞬く間に着流しに身を纏い、どこにあったのか花束を持ち部屋を出ていく近藤さんを無言で見送った。近藤さんも懲りねぇーな。
食事の前に手持ちの書類たちを自室に持っていき、上着を脱ぐ。スカーフを緩めてタバコを1本吸おうと襖を開けた。風も吹かぬ夜だが、初夏にしちゃ心地よい天気だ。
「あ、ひじかたさーん!」
珍しく音もない屯所の中庭でタバコを吹かしているとバタバタとガキのような足音が近づいてきた。もう見慣れたこいつの隊服も1年前はぶっかぶかで似合ってなかったっけ。
「もっと静かに登場できねぇのか、」
タバコをくわえて名前を見上げる。名前は虫カゴを抱えていた。
「見てくださいこれ!マヨ太郎とサド吉が喧嘩してるうんです、これリアルムシキングぅう!」
おめー18だろ、何でそんな虫で盛り上がれるんだ。虫カゴには土とピンク色のゼリーが土まみれになって虫カゴの端に転がっている。その近くで2匹のカブトムシが張り合っていた。
「パトロールさぼってこれ採りに行ってたんだろ、没収すっぞ」
「やめやめーせっかく捕まえた大事なカブトムシなんで渡しませんよ」
虫カゴを両手で抱えるその姿は小学生みたいで、何だか娘を持つ父親の気分になった。
‥いやいやこんな娘はぜってぇやだ。俺がグレる。
それにせっかくマヨ太郎て名前つけたんですよ、と虫カゴを見てニヤニヤする名前。
「どっちがマヨ太郎だ、」
「こっちのブサイクな方です」
至って真面目な2年目
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