「いだだっ、」
古い血が滲んだ包帯を荒々しく解くと、銀時が顔をしかめた。あらわれた傷口はまだ痛々しい、銀時がどれだけ苦しんだか、みんなを護ったかがわかる。
でも気に入らない、
「んがァア!痛い痛い痛いィイ!」
ドボドボと消毒液を傷口にぶっかける。涙目で叫ぶ銀時の肩をおさえてガーゼで垂れた液を拭き取る。
「名前ちゃーん?」
もう少し労ってくれてもいいんじゃない、と私の顔を覗き込む銀時。知るか、こんなに近くにいるのに、貴方はとてもとても遠い場所に立っているくせに。
護ると交わした約束のために、彼は飛び出して。私の声に振り返らずもせず背中は消えて。
「いつまで怒ってるの、銀さん悲しいよ?」
帰って来たと思えば傷だらけで、私の知らないところで起きていたことの大きさに着いていけないまま。
「悲しい?よくそんなこと言えるよ」
毎度毎度置いていかれる私の気持ちは分かってるの、貴方が護りたいものがあるのは分かるけれど私にだって同じくらい貴方が大切で護りたいのに。
銀時みたいに強くなきゃ、大切な人のことを護っちゃいけないの。何もできないから連れて行ってくれないの。
「‥名前、」
ばしっ、
彼の手が下を向いた私の頬に触れそうになって、思わず振り払った。
「触んないで!」
自分でも驚くほど大きな声で銀時を拒否していた。銀時は難しそうな表情で、私の瞳をとらえている。
「‥もう無理だよ」
ぽた、床に涙が落ちた。ぽたぽた、たくさんの斑点が作られて私の視界はどんどんぼやけていく。毎回毎回、ことが終わったあとにしか私にはわからないのも。ここでただ生きて帰るかもわからない中をひとり待つのも。傷ついた貴方を見るのも。
「‥‥‥」
銀時は何も言わず、ただ動かないままそこにいた。
「私‥限界‥っ」
胸が苦しい、押し潰されて声が出なくなりそう。呼吸すらままならなくて、震える手で着物をつかむ。
「っ‥ひっ‥んっ」
もう、いっそ銀時がその手で殺めて。
楽になればこんな苦しみも、貴方を待つ恐怖もなくなるでしょう。
「銀時、私も‥私も護ってよ」
ゆっくり顔をあげた先に見えた銀時は眉をひそめて、私を真っ直ぐとらえていた。
「ごめんな、」
銀時は悲しい笑顔で私の頬に伝った涙を指でぬぐった。そして立ち上がっていつものように着物を羽織る。片足を軽く引きずる後ろ姿が小さい。ごめんな、突き放したはずのその一言には銀時の温もりを含んでいて、それがまた私を苦しめた。
あぁ、また行ってしまうんだね
「ぎんと‥きぃっ、」
私の孤独に彼は振り返らない、いつだってその身ひとつでふらふらと行ってしまうんだ。
私の知らない場所へ、あの世に片足を突っ込んでいるような状況へ自ら飛び込んでいく。
どれだけ痛手を追っても、私なんかが止めても、彼は行ってしまう。
そして私はそんな彼がどれだけボロボロになっても、笑って帰ってきてくれることを願うしかない。
それが私の、愛する人を護る方法。
傷だらけの侍たち
傾城篇なイメージで
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